著者
今野 弘章
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.5-31, 2012 (Released:2022-03-08)
参考文献数
53

本稿は,「ださっ。」や「気持ち悪っ。」のような,形容詞の終止形活用語尾「い」が脱落し,形容詞語幹が声門の閉鎖を伴って発話された口語表現(「イ落ち構文」)を記述し,当該表現における形と意味の相関関係を明らかにすることを目的とする。統語的には,イ落ち構文は,C,T,Negの機能範疇を欠き,小節(small clause)が主節を形成する“root small clause”(Progovac 2006)の一種とみなすことができる。意味的には,イ落ち構文は,発話時における話者の感覚や判断を,「伝達」ではなく,「表出」する「私的表現行為」(Hirose 1995,廣瀬1997)専用の構文である。本稿では,このイ落ち構文の統語的特徴と意味的特徴を照らし合わせ,当該構文において,動機付け・類像性・有標性の相互に関連する観点から,形と意味が恣意的ではなく有機的に結びついていることを論じる。
著者
今野 弘章
出版者
奈良女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、日本語と英語の多様な構文を話し手の伝達意図という語用論的特徴に注目しながら観察し、統語論と語用論のインターフェイスについて考察した。特に、話者の伝達意図という語用論的性質と機能範疇という統語的性質の間にどのような対応関係が見られるのかを明らかにした。日英語には、話者の伝達意図を欠く非伝達的表現が機能範疇を同時に欠く場合、話者の伝達意図を含む伝達的表現が機能範疇を同時に含む場合が存在する。これらの事例は、伝達意図の有無と機能範疇の有無が類像的(iconic)に対応する場合があることを示している。