著者
砂原 秀哉 棚橋 京香 仲 立貴 菅野 昌明
出版者
日本トレーニング指導学会
雑誌
日本トレーニング指導学会大会プログラム・抄録集 第8回日本トレーニング指導学会大会 (ISSN:24337773)
巻号頁・発行日
pp.46, 2019 (Released:2022-02-25)

【目的】チェストプレスやショルダープレスでは、シートに後頭部、上背部、殿部を床面に右足、 左足を接触させる5ポイントコンタクトを保持することが推奨され、指導の実践現場において も、姿勢の重要性が強調されたレジスタンストレーニング指導が行われている。しかし、これ までのレジスタンストレーニングの指導書には、このような姿勢を維持する理由や姿勢の相違 に伴う発揮筋力の違いを示すエビデンスは明確に示されていない。そこで本研究は、チェスト プレスとショルダープレスの最大挙上重量(1RM)を、後頭部を背もたれシートに付けた姿勢と、 頸部を35°屈曲した姿勢で測定し、頸部の傾斜角度が1RMに影響を及ぼすかどうかを検討した。 【方法】対象者は、トレーニング経験を有する大学生28名(男性13、女性15名)、年齢は20.2±1.0 歳(男性20.8±0.4、女性19.7±1.1歳)であった。チェストプレスの測定はチェストプレスマ シン(FUNASIS社製)を用い、ショルダープレスの測定はショルダープレスマシン(LIDO社製) を用いた。姿勢条件は肩峰を通る床への垂直線-外耳孔と頭頂を結ぶ線の頸部角度が0と35° の2条件で実施した。角度の測定にMINATO神中式角度計7040を用いた。各姿勢条件における測 定はランダムに1RMに達するまで行った。チェストプレス、ショルダープレスの姿勢条件の1RM の比較には、対応のあるt 検定を行った。 【結果】対象全体のチェストプレス0°は50.5±18.0㎏、35°は50.7±18.5㎏、男子0°は67.5 ±9.0㎏、35°は68.3±9.9㎏、女子0°は35.7±6.9㎏、35°は35.5±6.4㎏であった。対象全 体および男女別ともにチェストプレス0°と35°の姿勢条件に有意差は認められなかった。一 方、対象全体のショルダープレス0°は27.1±9.1㎏、35°は25.9±8.9㎏、男子0°は36.0±5.1 ㎏、35°は34.4±4.9㎏、女子0°は19.5±2.7㎏、35°は18.5±2.8㎏であった。対象全体およ び男女別ともにショルダープレス0°が35°より有意に高値を示した。 【考察】頸部屈曲角度を変化させチェストプレスとショルダープレスでは、主働筋の長さが頸 部の屈曲により変化した場合に、筋の長さと張力の関係を示す「長さ-張力関係」によって 1RMに影響を及ぼすと考えられる。ショルダープレスでは、主に三角筋と僧帽筋上部が主働筋 であるが、頸部屈曲位35°条件では、肩甲骨や鎖骨の位置が変化し、これらの筋の長さが変化 し至適筋節長ではなかったと考えられる。一方で、0°条件では至適筋節長であったため高い 力を発揮することができたと考えられる。また、チェストプレスにおいて有意差が認められな かったことは、肩甲骨が起始部とは異なる大胸筋が代表的な主働筋であるため、頸部屈曲角度 の変化が大胸筋の長さに影響を及ぼさなかったと思われる。 【現場への提言】ショルダープレスのトレーニングにおいて、より適切に発揮筋力やパワーを 高めるためには、筋の長さ‐張力関係から、頸部屈曲角度を0°にしてトレーニングを行う必 要があると考えられる。一方、チェストプレスでは筋力発揮の観点からは頸部屈曲角度は影響 を及ぼさないと考えられる。