著者
伊東 敏光
出版者
広島市立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

「不在」とは、「本来その場所に在るべきものがそこに無い状態」を意味するが、本研究に於いてはその「不在」の概念が、いかに美術家の制作意欲の源となり表現に可能性を与えて来たか、また鑑賞者には共通の意識として作品との交点を提供して来たか、という二つの観点から20世紀後半に活躍した美術家の作品および関連資料の調査を行ってきた。今年度の研究では昨年の研究対象作家の中から、アントニー・ゴームリー/Antony Gormiey、ルイーズ・ブルジョア/Louise Bourgeois、ヤン・ファーブル/Jan Fabreの3名に焦点を絞り、彼等の生い立ちや経験と、作品との関係についてさらに分析をおこなった。また今年度特に注目した作家は、1970年代の現代美術界においてカリスマ的存在であったドイツ人彫刻家ヨセフ・ボイス/Joseth Beuysである。ボイスは第二次世界大戦参戦中にクリミアで撃墜され、猛吹雪による寒さで生死の境をさまよっている時に現地の遊牧民に救われた体験を持つ。帰還後彼は、獣脂やフェルト等自身にその体験を喚起させる材料を使って、彫刻制作やパフォーマンスをおこなった。ボイスは生涯の芸術活動を通して、我々の社会に欠けている見えない存在を具現化しようと試みた作家であるが、その創造性とそれが社会に受け入れられた背景に「不在」という認識で本研究者が捉えている概念が大きく関わっている。さらに1933年のソ連邦生まれのイリア・カバコフ/Ilya Kavakovや、1950年イタリア生まれのエンゾ・クッキ/Enzo Cuoohi、その他ヤニス・クネリス/Jannis Kounellisu、ブルース・ナウマン/Bruce Nauman、日本の村岡三郎等の作家についても調査、研究をおこない、冒頭に記した二つの観点から考察をおこなっている。また本研究における「不在」という概念そのものについても意味と領域について考察を続けている。なお本研究においては、「不在」をテーマとした実験的作品制作を合わせておこなっており、平成11年度中に公開展示する予定である。
著者
伊東 敏光 藤井 匡 靍田 茜
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、世界的にも作例の乏しい風景をモチーフとした彫刻を制作にするために何が必要であるかという観点から、「風景彫刻」を成立させるための造形理論と実験制作よる研究を並行しておこなった。理論研究では、日本国内の庭園、工芸等に見られる風景表現を実地調査し、また古代から現代までの絵画表現の変遷や様々な透視図法や遠近法等の調査を通じて、それらの表現方法の彫刻への応用等に付いての考察を重ねた。実験制作では「広島」や「対馬」といった特定の地域を限定した上での、「風景彫刻」の実験制作をおこなった。本研究の成果として特徴的なことは、実験制作によって彫刻による多様な風景表現の可能性を示すことが出来た点にある。