著者
中村 真司 中川 貴美子 原田 樹 栗田 康寿 藤井 真広 伊藤 宏保 菊川 哲英 吉田 昌弘
出版者
富山救急医療学会
雑誌
富山救急医療学会 (ISSN:21854424)
巻号頁・発行日
vol.33, 2015

【はじめに】多数傷病者発生事案では分散搬送が原則であるが、医療圏を越えての搬送は実際には難しい。今回、4人家族の交通事故において分散搬送し、状態安定後再集約する事案を経験した。<br>【症例】トンネル内での軽自動車と4tトラックの衝突事故。軽自動車乗車中の4人(両親、長男、長女)が受傷した。救急隊トリアージにて父親は骨盤骨折疑い、母親は大腿骨骨折疑い、子供2人は心肺停止であった。砺波医療圏MC医師の判断により、母親、長男は市立砺波総合病院へ、父親および長女は当院へ搬送された。<br>症例1: 2歳女児。来院時心肺停止。病着後8分、受傷後54分で心拍再開した。全身CTで外傷性くも膜下出血、高度脳腫脹、頸部血管損傷疑い、骨盤骨折、左大腿骨骨幹部骨折を認めた。脳腫脹強く、神経学的な改善は望めない状熊であった。<br>症例2: 28歳男性。右股関節脱臼骨折を認め、整復後にICU入室となった。<br>女児が重度脳機能障害のためBSCの方針となり、家族の集約を目的に、父親が第3病日に、女児が第4病日に市立砺波総合病院へ転院となった。なお、母親は大腿骨骨折、長男も心肺停止であったが、蘇生に成功した。<br>【考察】3次病院においても、小児2名の外傷CPAの初療は難しい。また、救急隊の判断による医療圈を越えた分散搬送は現実には難しい。今回はオンライン指示によるMC 医師の調整により、2名とも心拍再開することができた。現場医師要請、あるいは県全体のルール策定などにより、よりスムーズな現場分散搬送体制の構築が重要と思われた。<br>【まとめ】今回、我々は4名の傷病者、うち2名が小児の心肺停止であった事案を経験した。分散搬送することにより2名の心肺停止の小児を蘇生することができた。
著者
蕪木 友則 須崎 紳一郎 勝見 敦 原田 尚重 原 俊輔 伊藤 宏保 安田 英人
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.207-212, 2013

経動脈的塞栓術が有効であった穿通性腹部臓器損傷症例を経験したので報告する。症例1は35歳の女性。路上歩行中に果物ナイフで数箇所を刺され受傷した。そのうちの右前胸部の刺創は,胸腔から腹腔内に達していた。来院時血圧は維持されており,腹部造影CT上,肝右葉に損傷を認め,造影剤の血管外漏出所見,腹腔内出血を認めた。主要な損傷は肝損傷のみで,損傷部からの持続出血を認めたが,肝動脈塞栓術で出血のコントロール可能と考えて,経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールできた。症例2は63歳の男性。妻と口論の末,果物ナイフで右背部を刺され受傷した。来院時血圧は76/43mmHgであったが,輸液負荷により上昇し,腹部造影CT上,造影剤の血管外漏出所見を伴う右腎損傷を認めた。腎動脈の分枝からの出血と判断し,腎動脈塞栓術にて出血のコントロール可能と考えて経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールされた。穿通性腹部臓器損傷に対する止血法として,循環が維持され,CT検査が施行できる症例に関しては,経動脈的塞栓術も選択肢の一つになると思われる。