著者
高橋 洋子 須崎 紳一郎 勝見 敦 原田 尚重 諸江 雄太 蕪木 友則 中澤 佳穂子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.208-215, 2007-05-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
25
被引用文献数
1

消火器に含まれる消火薬剤による高カリウム血症が原因と思われる心停止の事例を経験した。症例は68歳の男性。統合失調症で他院入院中, 消火器を自ら口にくわえて噴射した。その直後より, 全身の発汗, 四肢の冷感が出現。ショック状態のため, 当院救命センターへ転院搬送となった。来院時, GCS E3V5M6で不穏状態で, 収縮期血圧60mmHg, 心拍数99/min, SpO2 99%であった。生化学検査で血清K濃度が10.3mEq/l, 心電図上でテント状T波を認めた。入室より38分後, 心肺停止状態となったが, 2時間以上にわたる心肺蘇生の後, CHDF等の集中治療を行い, 救命することができた。本症例で使用された消火器は, 主成分が炭酸カリウムであり, 内容物中のカリウムが体内に吸収され高カリウム血症となり, 心停止に至ったものと考えられた。一般に, 消火薬剤は低毒性と考えられているが, 致死的中毒を引き起こす危険性があることは広く認知されるべきである。
著者
岸原 悠貴 安田 英人 須崎 紳一郎 原田 尚重 原 俊輔 蕪木 友則 東 秀律 寺岡 麻梨 山本 浩大郎 鈴木 秀鷹
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.643-650, 2020-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
9

目的:適切な入院先の選定を可能にすることで患者の予後を改善する目的から,重症化予測スコアリングモデルの検討を行う。方法:デザインは単施設後方視的コホート研究で, 2013年1月〜2015年12月に武蔵野赤十字病院救命救急センターに入院した急性医薬品中毒患者を対象とした。重症管理の有無を主要評価項目とし予測スコアリングモデルを複数作成,それらを統計学的に比較した。結果:171例を対象に解析を行い,重症管理群29例(17.0%),非重症管理群142例(83.0%)であった。予測スコアリングモデルを比較すると,ハイリスク薬剤内服の有無,内服薬の錠数151錠以上の有無,GCS 6未満の有無,心電図変化の有無を説明変数とすると妥当性がもっとも高かった(AIC=125.6)。結論:本予測スコアリングモデルによって急性医薬品中毒患者の重症管理予測の一助となる可能性がある。
著者
須崎 紳一郎 小井土 雄一 冨岡 譲二 大泉 旭 布施 明 黒川 顕 山本 保博
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.42-50, 1994-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

International repatriation(国際患者搬送帰還)を担当実施した自験例19例(邦人帰還12例,外国人送還7例)を報告し,その実態と問題点を検討した。相手地はアジア,南北米,欧州からなど4大陸13ヵ国で,総搬送距離は133,643km,搬送飛行時間は171時間35分に及び,平均搬送距離は7,034km,平均飛行所要時間も9時間2分を要した。最長はLimaからのLos Angels経由15,511kmの搬送で,飛行時間だけでも21時間を超えた。随行医師は当施設から1名ないし2名を派遣した。原疾患は多岐にわたり,19例のうち意識障害例は4例,移送経過中人工呼吸を必要としたものは2例あった。最近の10例は国際アシスタンス会社からの依頼を受けた。航空機は全例民間定期便を利用した。移送経費は平均で300万円程度を要した。搬送途上の医療面では呼吸管理が最も重要であったが,一般の大型定期旅客機を利用する範囲では騒音,離着陸加速度,振動などは患者の循環動態には大きな影響を認めなかった。国際患者搬送帰還は,相手先病院,航空会社,保険会社,空港当局はじめ諸方面の協力と綿密な準備連絡があれば医療上は必ずしも困難ではないが,目下のところ本邦は欧米に比べ,これまでこのような医療需要に対する受け入れや派遣の実績,経験が乏しく,支援体制の整備,組織化が遅れているのが最大の問題点である。
著者
蕪木 友則 須崎 紳一郎 勝見 敦 原田 尚重 原 俊輔 伊藤 宏保 安田 英人
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.207-212, 2013

経動脈的塞栓術が有効であった穿通性腹部臓器損傷症例を経験したので報告する。症例1は35歳の女性。路上歩行中に果物ナイフで数箇所を刺され受傷した。そのうちの右前胸部の刺創は,胸腔から腹腔内に達していた。来院時血圧は維持されており,腹部造影CT上,肝右葉に損傷を認め,造影剤の血管外漏出所見,腹腔内出血を認めた。主要な損傷は肝損傷のみで,損傷部からの持続出血を認めたが,肝動脈塞栓術で出血のコントロール可能と考えて,経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールできた。症例2は63歳の男性。妻と口論の末,果物ナイフで右背部を刺され受傷した。来院時血圧は76/43mmHgであったが,輸液負荷により上昇し,腹部造影CT上,造影剤の血管外漏出所見を伴う右腎損傷を認めた。腎動脈の分枝からの出血と判断し,腎動脈塞栓術にて出血のコントロール可能と考えて経動脈的塞栓術を施行した。塞栓術により,出血はコントロールされた。穿通性腹部臓器損傷に対する止血法として,循環が維持され,CT検査が施行できる症例に関しては,経動脈的塞栓術も選択肢の一つになると思われる。