著者
福田 栄紀 伊藤 巌 伊沢 健
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.100-107, 1988-09-30

放牧牛群におけるspatial leaderの存否とそれに関わる社会構造の特性を明らかにしようとした。去勢育成牛11頭からなる牛群を用い,食草移動時の群れの個体配列を5分間隔で記録した。さらに,社会的順位制との関連性を検討し,下記の結果を得た。1)群れの各構成個体は,それぞれ群内のどの位置に多頻度に出現するかに偏りがみられた。その偏りのある位置別出現頻度パターンから各個体を先頭型,両端型,中央型,後方型の4つの型に類型化でき,これをpsitional patternと名付けた。2)群れから先頭型の個体を除去すると,それに代り両端型の各個体が先頭集団に多頻度に出現し,再び先頭型の1頭を元に戻すと両端型の各個体は後方に下がるという変化が認められた。しかし,各同一positional patternに属するそれぞれの個体間の結びつきは保持された。3)社会的順位とpositional patternの関係をみると,先頭型と両端型は上位牛と下位牛の組合せから,中央型は下位牛から.後方型は中位牛から構成され,型ごとに特定の社会的順位間の結びつきがみられた。4)以上のことから,この牛群内には群内の特定の位置的順位を介して成立し,また特定の社会的順位構成を持つpositional patternという社会構造が存在する可能性が示唆された。そしてspatial leadershipはそのpositional patternのうちの2つの型,すなわち先頭型と両端型(先頭牛を除去した場合)の個体によって高頻度に発揮された。
著者
梅村 和弘 菅原 和夫 伊藤 巌
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.836-840, 1989-09-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
19

雄牛が発情牛を識別する際の,視覚,嗅覚,聴覚の役割について検討した.1. 並べて繋留した発情牛と非発情牛の後方5mから雄牛を放し,雄牛がどちらの雌牛を選択するかを調査した.次に,両雌牛の後方数cmのところに寒冷紗の幕を張り,通気性はあるが,雄牛が直接視覚で雌牛を捉えられないようにし,同様の調査を行なった.その結果,寒冷紗の幕を張った場合でも,雄牛は雌牛に接近し,臭いをかぐなど若干の探索行動をした後,正確に発情牛を識別した.2. 並べて繋留した発情牛と非発情牛の頭部以外を透明ビニールシートでおおい,その後方から雄牛を放した,その結果,雄牛は両雌牛に興味を示し接近するものの,発情牛を識別することは不可能であった.3. パドック内の両端に置いた2台のテープレコーダーから,雄牛に発情牛と非発情牛(子牛に対する母牛の鳴き声)を同時に聞かせた.その結果,いずれの鳴き声にも興味を示し接近したが,発情牛の鳴き声に特に誘引されるということは見られなかった.以上の結果から,雄牛は遠方からは視覚,あるいは聴覚により雌牛の存在を知り接近するものの,発情牛の識別には嗅覚が重要な役割を担っているものと考えられた.