著者
伊関 文隆 三上 かつら 佐藤 達夫
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.3-23, 2021-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
34

タカ目の種は初列風切を最内側のP1から最外側のP10へと順番に換羽する標準的な換羽様式を行うと言われていた.しかし,近年タカ目であるツミAccipiter gularisにおいて初列風切の中央を最初に換羽する新たな換羽様式を行うものがいると報告された.しかし,その換羽様式は全容解明には至っておらず,更なる調査が必要である.そこで,著者らはツミの若鳥の換羽様式を調査し,本報ではその順序,時期および雌雄差について報告する.調査は,写真(146例),剥製(56例),飼育された鳥(1例)の3つの材料を用いて翼の換羽データを収集した.そこから換羽の順序を見積もるために2つの異なる方法を用いて解析した.1つは換羽した部位の分布から推定する方法であり,もう1つは非対称の換羽の位置から推定する方法である.換羽における性別,時期別,地理別の違いの有無を調べるために統計解析を行った.これらの解析により,ツミの独特な換羽様式が得られた.いくらかの個体は初列風切の中央から換羽を始め,内側と外側の両側に向かって順番に換羽する散開式換羽を行い,そしてそれは越冬期に行われた.加えて,散開式換羽を行うものは雌より雄の方が換羽が早く行われた.さらに,次列風切ではS2がS1より先に換羽した.このような一般的ではない換羽様式とそれに関連する現象(渡りや換羽時期)の解明は換羽の進化をより深く理解する一助となる可能性があり,更なる調査が必要である.