著者
住吉 康大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.348-363, 2021-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本稿では,千葉県南房総市と周辺地域を事例に,近年メディア等で注目を集める「二地域居住」に焦点を当て,二地域居住者と地域の実態を明らかにし,人口減少社会における地域振興との関係性を検討した.現地調査を通じて,二地域居住は「田舎暮らし」を希望していても移住は難しい場合の次善策として選択されていることや,事例地域では,大都市部からの良好な交通条件と豊富な自然環境に加え,先駆的なリーダーによる情報発信が機能して,多様な二地域居住者が集まっていることが示された.自治体が行う移住支援策との相乗効果が生まれ,二地域居住者が地域の課題解決を目指す活動も生じているなど,二地域居住が地域振興に寄与する可能性はあるものの,現時点では地域住民からの二地域居住に対する認知度は低いため,地域振興策として二地域居住を推進する際には,リーダーの活動を生かす一方で,自治体が地域住民との橋渡しを行う必要があると考えられる.
著者
住吉 康大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.122, 2021 (Released:2021-03-29)

現在,日本では「多拠点居住」や「アドレスホッパー」などのように,自ら定住的な生活を離脱し,複数の地域で観光よりも深い関わりを持つ一方,移住ほど強く根付くことはなく,移動を続けることで得られるメリットを享受しようとする生活様式が注目されている.しかし,現時点では新奇な事象であり,十分な研究蓄積がないため,既存の概念との関係を踏まえ,どのように定位するか検討する必要がある.既に,同様の生活に対して「複数地域居住」や「多拠点生活」など,様々な呼称が林立している状態であり,研究を進める際の大きな障壁となっている.報告者は,この状況を踏まえて,「個人が,主体的に,特定の地域・拠点を基盤とした定住的な生活を離脱して,恒常的な移動を中心に据えた生活を志向する変化」に注目することが重要であると考え,「脱定住化」として提起した.本発表では,生活の質を重視した主体的な移動行動である点が類似している「ライフスタイル移住」の概念と,恒常的な移動を前提とした生活であるという点が類似している「ノマド」の概念とに関する先行研究を検討し,新たに「脱定住化」を導入する意義について考察する.