1 0 0 0 漬物の科学

著者
住江 金之
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.705-709, 1967

漬物は発酵食品である。また酒粕の重要な販路であり, 食塩を用いる点では味噌・しょう油の製法に近い。しかも食生活の上では, 酒・味噌・しょう油と切っても切れない縁がある。さらに漬物中に繁殖し活躍する菌群の動態は, 微生物を扱う者にとって興味深々たるものがある。醸造にたずさわるものが, 知っておかねばならない漬物の知識をお届けする。
著者
住江 金之
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
醸造學雜誌
巻号頁・発行日
vol.9, no.7, pp.475-483, 1931-07-15

従來澱粉質物を原料とする酒精工場では最初〓を製造する際乳酸醗酵を行はせる、又糖蜜を原料とする酒精工場では屡々醪に0.1%内外の硫酸を加へて居る。此等は何れも雑菌の侵犯を防ぐ主旨で有る事は云はずも明かな事である。此場合〓又は醪の酸度は強い程雑菌防止の目的には沿ふけれ共一方では強酸の爲酵母の繁殖並に醗酵が妨げられる事となる。それで若し酸に對し抵抗力の強い酵母の種類が有つたならば醪を強酸性にして醗酵させる事が出来るので頗る都合が宜しい。又従來の酒精工場では、醪の濃度をBallingの12度以下として居る(糖蜜を原料とする時は別であるが)若し更に濃厚な糖液中でも良く醗酵する様な酵母が有つたならば、同一設備の下に能率を上げる事が出来るので有る。上記の理由に依り耐酸性耐濃糖性酵母を心竊かに探して居たが偶然思ひついたのが著者の郷里あたりで家庭で造つて居る梅酒で有つた。此種の梅酒は普通の梅酒と大分趣の變つた製法であつて。乃ち青梅の身を削つて。一方に三盆白糖を置き。果肉に白糖粉を充分に塗抹し直ちに瓶に入れる。果肉から出た汁が瓶内に溜る。白糖は中々溶けきれないで瓶の底に堆高く積つて居る。少しも水などは加へない。それで醪の酸度と糖度は頗る高くなつて居る。斯して2-3日中に醗酵を始め1週間位で最も旺盛に醗酵し2週間位で、醗酵が終る。醗酵中の醪を採つて見ると多數の酵母が居る。上記の醪から酵母を分離してSaccharomyces屬のもの二株Mycotorula屬のもの二株を得た。Saccharomyces屬のものは何れも相當の醗酵力は有るけれ共、普通の糖度で然も酸を加へない場合には従來の酒精酵母並に臺湾研究所の396號に及ばない。併し濃糖濃酸の場合には是等よりも醗酵力が強い。又Mycotorula屬のものは醗酵力は左程強くないが耐酸性は異常に強いので將來此特性に基き何が利用の途が有るかも知れないと思ふ。兎に角此度分離した酵母は直接實用に供するには尚不充分で有るが將來多くの梅實に就て調査したならば多分は實用になる種類も探し當る事と思はれるし、更に又直接實用にならぬとしても梅實に斯様に耐酸性の酵母が居る事は学術上にも興味ある事と思ふので此處に報告する事とした。