著者
池庄司 敏明 佐々 学 長田 泰博
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.188-196, 1959

糸状虫媒介蚊, 特にアカイエカCulex pipiens pallensの駆除にあたつて, 蚊幼虫, 成虫の室内実験および鹿児島県奄美大島, 愛媛県三崎町での実地試験を行つた.その結果と, 附随して提起されたイエバエのpopulationに関連した二, 三の問題を論じた.1. Culex pipiens pallens, Aedes aegypti, Aedes albopictus, Armigeres subalbatusの幼虫について, 各種殺虫剤の乳剤について, スクリーニングテストを行つた結果, parathionについでdieldrin, 有機燐製剤が有効であつた.さらに水中における残効性を試験したところ有機塩素剤が安定, 有効であつた.2.アカイエカの静止場所とdieldrinの残留効果について室内実験を行つたところ, 比較的暗い, 垂直な面に繋留し, 残留効果については, 薬剤残留面に繋留した蚊の多数が噴霧しない室に入つて死亡することを観察した.3.直接滴下法により蚊成虫の薬剤に対する感受性を調べた結果, 幼虫と成虫の感受性の間に大きな差があることがわかつた.Busvine-Nashの接触法では2時間接触させ24時間後に死亡数を観察する方法が最も良好であつた.4.愛媛県三崎町, 二名津, 松両部落でdieldrinの残留噴霧を行つた.対照地区として両部落から約3km離れた明神部落をとり, 薬剤散布4カ月後直接滴下法でイエバエの薬剤に対する感受性を調べた所, dieldrin, lindaneについて撒布部落のハエは対照地区のものに比較して若干低かつた.しかし, これがdieldrin噴霧によるものかどうかについては判然としない.奄美大島, 網野子, 仲勝両部落でdieldrinの残留噴霧を行つた約4カ月後, 抵抗性の検定を行つたところ, 抵抗性を生じてはいなかつた.5.奄美大島仲勝, 有屋部落において6月30日にdieldrinの残留噴霧を行い, 蚊に対しては, 非常に有効であり, 現地人の話では一夏の間有効であつた.6.愛媛県三崎町二名津部落で行われたdieldrin残留噴霧も蚊には長期著効があつたがイエバエに対する効果は, 大体1カ月であつた.しかし, その後に, イエバエの異常発生があつた.7.奄美大島四部落においても同様な現象があり, イエバエ駆除の為に第2回の薬剤撒布を行つた.その結果第1回撒布でdieldrin, , 第2回撒布でDDTを使用した場合のみ有効であつた.しかし, その理由は, イエバエのdieldrinに対する抵抗性の増大によるものとは認められず, むしろ撒布量の少なかつたことに問題があるようである.
著者
菊池 三穂子 佐々 学
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.291-329, 1990
被引用文献数
1 12

スマトラのトバ湖岸で1987年1月より1989年1月の間に3回, ユスリカの成虫の採集を行った。それには, 捕虫網, ないし吸虫管による昼間の捕集と, 夜間に池で作動する螢光灯に誘引される成虫の吸虫管による捕集とを併用した。それの標本はスライドガラスにガムクロラール液で封入標本とし, 主として雄成虫で種の鑑別を行った結果, 101匹の雄が31種に分類され, そのうち26種はChironominae亜科, 5種はOrthocladiinae亜科に属するものであった。これらのうち, 20種は新種, そのうち3種は新属の新種として新たに学名を与えた。インドネシアを含む東南アジアに産するユスリカ科についてはこれまできわめて記録が少なかったが, 今回の調査でも多くの未記録のユスリカが分布することが示され, それらには分類学的にもきわめて斬新な種類が含まれていた。