著者
福井 正信 長田 泰博 黒佐 和義 田中 英文
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.169-172, 1959

1) 1958年11月より1959年1月にかけ関東甲信越駿1都10県の国立病院薬局68カ所を対象として薬局常備薬剤のダニ, 昆虫その他の異物の調査を行つた.2)対象薬剤に澱粉, 乳糖, 含糖ペプシン, ジアスターゼ, パンクレアチン, V.B_1, 乳酸菌製剤, タンナルビン, 乾燥酵母の9種でありこれを各々元封々切直後, 封切後貯蔵, 封切後装置瓶保管の3種ずつ検査を行つた.3)1, 071検体中ダニ検出例44(4.1%), 昆虫検出例51(4.8%)となり薬品別には乾燥酵母がダニ検出率19.6%, 昆虫検出率17.8%と最も高かつた.3)保存条件別には装置瓶, 開封放置の間には差がみられなかつたが元封々切直後のものからも以上2者の50%程の検出例が記録された.4)経過日数によるダニ検出率の差はみられないが長期保存のものからは多数のダニが採集された.5)容器別には多くの形態のものより採集された.また検体採集時の温度, 温度と検出率の間に一定の傾向はみられなかつた.
著者
池庄司 敏明 佐々 学 長田 泰博
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.188-196, 1959

糸状虫媒介蚊, 特にアカイエカCulex pipiens pallensの駆除にあたつて, 蚊幼虫, 成虫の室内実験および鹿児島県奄美大島, 愛媛県三崎町での実地試験を行つた.その結果と, 附随して提起されたイエバエのpopulationに関連した二, 三の問題を論じた.1. Culex pipiens pallens, Aedes aegypti, Aedes albopictus, Armigeres subalbatusの幼虫について, 各種殺虫剤の乳剤について, スクリーニングテストを行つた結果, parathionについでdieldrin, 有機燐製剤が有効であつた.さらに水中における残効性を試験したところ有機塩素剤が安定, 有効であつた.2.アカイエカの静止場所とdieldrinの残留効果について室内実験を行つたところ, 比較的暗い, 垂直な面に繋留し, 残留効果については, 薬剤残留面に繋留した蚊の多数が噴霧しない室に入つて死亡することを観察した.3.直接滴下法により蚊成虫の薬剤に対する感受性を調べた結果, 幼虫と成虫の感受性の間に大きな差があることがわかつた.Busvine-Nashの接触法では2時間接触させ24時間後に死亡数を観察する方法が最も良好であつた.4.愛媛県三崎町, 二名津, 松両部落でdieldrinの残留噴霧を行つた.対照地区として両部落から約3km離れた明神部落をとり, 薬剤散布4カ月後直接滴下法でイエバエの薬剤に対する感受性を調べた所, dieldrin, lindaneについて撒布部落のハエは対照地区のものに比較して若干低かつた.しかし, これがdieldrin噴霧によるものかどうかについては判然としない.奄美大島, 網野子, 仲勝両部落でdieldrinの残留噴霧を行つた約4カ月後, 抵抗性の検定を行つたところ, 抵抗性を生じてはいなかつた.5.奄美大島仲勝, 有屋部落において6月30日にdieldrinの残留噴霧を行い, 蚊に対しては, 非常に有効であり, 現地人の話では一夏の間有効であつた.6.愛媛県三崎町二名津部落で行われたdieldrin残留噴霧も蚊には長期著効があつたがイエバエに対する効果は, 大体1カ月であつた.しかし, その後に, イエバエの異常発生があつた.7.奄美大島四部落においても同様な現象があり, イエバエ駆除の為に第2回の薬剤撒布を行つた.その結果第1回撒布でdieldrin, , 第2回撒布でDDTを使用した場合のみ有効であつた.しかし, その理由は, イエバエのdieldrinに対する抵抗性の増大によるものとは認められず, むしろ撒布量の少なかつたことに問題があるようである.
著者
鈴木 猛 緒方 一喜 平社 俊之助 長田 泰博
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.258-267, 1959

1.1959年5月8日より6月9日に至る間, 長崎県西彼杵郡高島町の端島において, ゴキブリの棲息状況の調査, 及び殺虫剤による駆除実験を試みた.2.採集数1232匹中, 3匹のクロゴキブリPeriplaneta fuliginosa Servilleを除いて, 他はすべてワモンゴキブリPeriplaneta americana L.であり, 1958年の予備調査の結果とあわせ, 端島のゴキブリの優占種はワモンゴキブリであり, しかもきわめて高い比率を占めることを認めた.3.実験地のアパートからトラツプによつて採集されたワモンゴキブリは, ♀より♂の方がはるかに多い.一方, ほぼ同時間に採炭坑内から採集されたワモンゴキブリは, ♀の方が♂より多いことを知つた.4.ワモンゴキブリは実験地のアパートに確率的に分布するのではなく, ある特定の家に集中する.そして, 各戸面接調査によつて得た環境条件と, トラップで捕獲したゴキブリ数の相関をしらべた結果, カマドの使用頻度が高く, カマドの下にたきぎや紙などがつまつており, また屋内全体の湿気が高い家ほどゴキブリの棲息密度が高いことを知つた.5. diazinon 5%乳剤(塗布及び撒布, 各原液及び5倍), lindane 10%乳剤(各2倍及び10倍), dieldrin 4% lindane 6%乳剤(各2倍及び10倍), BHC50%水和剤(各10倍及び50倍)をカツコ内の濃度に稀釈し, 塗布実験区では, 1戸150ccの割でカマドや流しの周辺, 台所のすみ, 押入の入口などに刷毛を用いて巾5〜7cmに塗布した.撒布実験区では, 台所や押入入口附近のゴキブリの潜伏場所やその周辺に対し, 1戸あたり約800ccを全自動式噴霧器によつて撒布した.6.薬剤の効果を正しく把握するため, トラップあるいは視察によつて得たデータに対し, 次の補正によつて相対棲息密度指数RPIを算出した.RPI=T_<ai>/E_i×100=C_b/C_<ai>×T_<ai>/T_b×100ここで, T_<ai>, T_bはそれぞれ薬剤処理区の処理以前の1日平均捕集数, C_b, C_<ai>は同じく対照区の平均捕集数であり, またE_iは, 薬剤処理を全く行わないと仮定した場合の処理区のi日後の期待捕集数で, 次によつて得られる.E_i=T_b×C_<ai>/C_b 7.同種の薬剤で, 塗布の効果は一般に撒布の効果に劣る.トラップの捕集数から判定すると, lindane撒布, lindane・dieldrin混合剤撒布がもつとも有効であるが, 1ヵ月後にはほぼもとの相対密度まで回復する.diazinon撒布及び塗布, 混合剤塗布がこれにつゞき, lindane塗布は効果がそれほど大きくない.BHCの撒布と塗布は, 効果がほとんど認められなかつた.8.視察及び死亡虫数から効果を判定すると, おゝむねトラップによる方法と結果が一致するが, ただBHC撒布の効果が著しく高くあらわれた.9.薬剤処理後のワモンゴキブリの性比及び幼虫比を, 処理前及び対照区のそれと比較検討した結果, 処理区では, 全成虫中に占める♂の比率及び全ゴキブリ中の幼虫の比率がともに減少する傾向にあることを知り, これを♀に対する♂の, また成虫に対する幼虫の, 薬剤に対する高い感受性によるものと推定した.結果において, 薬剤処理区では, ♀の比率が高まることを知つた.10.アパートの各戸内に床面積1m^2あたり9.2cc(約300cc/33m^2)のDDVP0.3%油剤を煙霧機によつてふきこんだが, ワモンゴキブリに対して, ほとんど効果が認められなかつた.11.端島で1959年6月以降行われたゴキブリ全島駆除の概況を附記した.