著者
池庄司 敏明
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.7-15, 1981
被引用文献数
2 16

雄蚊の羽音が雄蚊を誘引するという報告は古く, 羽音と関連した交尾行動を報告した論文は多い。しかし羽音を蚊の駆除に利用した報告は極めて少ない。本実験は, 最初に生態の異なる4種の蚊の羽音の基音周波数の分布を測定した。次に発振器を使用し, 各種, 雌雄の平均周波数の音を発生させ, 雌雄200匹の蚊を入れた30cm立方のケージから雄蚊の抽出を行った。ネッタイシマカ, ヒトスジシマカでは466Hz, 462Hzの雌蚊の周波数音を, 15分ずつ1日48回発生させ, 3∿4日間, 雄蚊を抽出したところ, 0%, 1.9%の雄蚊が残り, 15.3%, 11.8%の雌蚊が受精された。ところが, An. stephensi (423Hz)とチカイエカ(370Hz)では, 9.2%, 8.7%の雄蚊が残留し, 65.7%, 93.6%の雌蚊が受精された。一方ヒトスジシマカ, An. stephensiでは28.0%, 15.2%の雌が903Hz, 640Hzの雄の羽音に誘引された。これは野外での雄蚊の群飛の音に雌蚊が誘引されることを示唆している。An. stephensiは, 18 : 00の消灯後わずか15分間ゲイトに触角剛毛(fibrillae)を立て, 雌蚊の羽音に反応するので, 1日1回の発振音で, 1日48回の発振音と同率の雌交尾率と雄捕獲率を示した。ネッタイシマカ, チカイエカは4 : 00(点灯), 18 : 00(消灯)前後に交尾活動ピークがあり, しかも明暗期を通じて, 少率ではあるが交尾活動を行った。いずれの種も雄は, ほぼ24時間で尾節(hypopygium)は, 180°の回軸を完了し, An. stephensiを除いて触角剛毛90°の起立を完了し, 交尾可能となった。一方雌は交尾可能になるまでに1∿2.5日間を要した。交尾のための誘引には, 羽音が最も重要で, 揮発性の誘引フェロモンは存在しなかった。
著者
池庄司 敏明 Bakotee Barnard
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.331-337, 1996
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

人口64,000を対象に, 1993年10月から1996年2月にかけて, 11,373枚の処理蚊帳を配布した結果, PCDマラリア2罹患率は1993年のピーク1,087/1,000から1995年の605.3/1,000に減少し, さらに1996年末までには182/1,000へ減少すると外挿予想した。妊産婦に2,000枚を無料配布したところ, 新生児の月間罹患数が110から2カ月後に54へ急減し, 低体重新生児(2.1kg未満)の比率も4.2%から1.9%へ減少した。さらに500枚の(Olyset)^[○!R]nets(ペルメトリン既処理蚊帳。住化ライフテク製, 大阪)を15村落に配布したところ, 月間罹患数120が58に減少し10カ月間持続した。これは現地処理蚊帳を配布した31村落での減少率の2倍にあたる。家庭訪問による世論調査では, 市民の蚊帳所有率は50%で, 年間1.5回洗濯し薬剤再処理は8%であった。一人当たり蚊帳所有数0.8-1.0の家族は0の家族より罹患率が有意に少なかった。迅速な蚊帳追加配布と薬剤再処理がこれからの重要課題となる。
著者
池庄司 敏明
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.95-101, 1985
被引用文献数
2 15

音トラップの効率を高めるためには雄蚊の交尾行動を理解する必要がある。本報は飼育雄蚊5種(Cx. p. molestus, Cx. p. pallens, Ae. aegypti, Ae. albopictus, An. stephensi)と採集雄蚊3種(Cx. tarsalis, Cx. tritaeniolynchus, Ae. melanimon)について, 日齢と雌蚊の羽音への走音性を調べた。採集雄蚊の日齢は中胸furcumの肥厚層を数えて決定した。雄蚊の走音性は, Cx. p. molestusで2日齢(羽化後48∿72時間), 他6種では3,4日齢が最も高く, 以後は漸減した。飼育雄蚊の走音性は, 日齢, 交尾歴が増すに従って減少した。また, 走音性の高いAe. aegyptiは授精能力が高かったが, Cx. p. molestusは走音性の高低にかかわらず授精能力は高かった。
著者
池庄司 敏明
出版者
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.41-49, 1982-03-15 (Released:2016-09-03)
被引用文献数
5 10

metepaを処理したビーカーにスピーカーをセットし, 蚊の羽音を混合したり, 周波数, 強度を変調させ, 雄蚊に対する誘引性を, 卵のふ化率の低下で調べた。雌蚊の周波数なら単一の純音で充分に誘引した。音の強度の変調では, Ae. aegyptiに対して, 466Hz, 98dB SPLの音が, またCx. p. molestusに対しては, 370Hz, 124dBの音が最も卵のふ化率を低下させた。さらに466Hz, 124dBの純音は, 100mの遠距離まで到達し, Ae. aegyptiを不妊化させ得ると推論した。卵のふ化率は, 不妊剤の処理薬量に反比例し, Ae. aegyptiでは660μg/(cm)^2で0%, 20μg/(cm)^2で9.7%であった。以上, 自動不妊化法は雄蚊の大量誘殺より, はるかに優れた蚊の駆除法になることを示した。

1 0 0 0 OA 音の利用

著者
池庄司 敏明
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.10, pp.687-694, 1982-10-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
33
著者
池庄司 敏明 Bakotee Barnard
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.25-31, 1997
被引用文献数
2 7

ホニアラ市におけるマラリア駆除計画の一環として, 1993年10月から1996年2月までに11,373枚のペルメトリン処理蚊帳(通常蚊帳4,722枚, Olyset^[○!R]6,651枚)を配布した。配布蚊帳の現状把握とアフターケアーは, 駆除計画の持続性を維持するために大切である。そこで配布蚊帳のペルメトリン定量分析と効力試験をおこない, 処理薬剤の動態を調べ適切な使用法を推奨した。ガスクロで206枚の蚊帳を分析したところ, 残留量は258.1mg/m^2で, 残留量対数は使用月数に一次比例した。オリセットは洗剤使用の洗濯で76.3%の表面薬量を流出し, 太陽光暴露で81.5%が再露出した。無洗剤洗濯が推奨される所以である。蚊帳表面ペルメトリンの昆虫学的有効量閾値は60mg/m^2,疫学的有効量閾値は100mg/m^2で, 蚊は40分間にそれぞれに5.2と4.7回, 9.0と8.2分間係留した。一方, 無処理蚊帳には16回, 28分間係留した。野外では忌避性接触刺激性薬剤から飛逃するので, 昆虫学的に有効な蚊帳でも疫学的には有効ではない。現調査では配布蚊帳のわずか46.6%が昆虫学的に, 37%が疫学的に有効で, 薬剤再処理が切望された。
著者
池庄司 敏明 Yap Han Heng
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.213-217, 1990
被引用文献数
16

1989年8月5日から18日までマレーシア, ペナン市の2haの果樹園に, d-cyphenothrin 50ng/(cm)^2を処理し, スピーカを付けた黒色ポリエチレン膜トラップ15個を設置し, ヒトスジシマカの駆除を試みた。駆除前後の個体数を標識放飼法と粘着トラップ法で推定比較したところ, 雌80.9%, 雄75.5%が駆除されていた。高率の雌駆除率は受精率を57%から100%へ増加させた。この期間, 無処理区の個体数に大きな変動はなかった。本種の駆除効率を高めるためには, 中距離誘引物質の開発と高濃度の薬剤処理が必要である。
著者
池庄司 敏明 佐々 学 長田 泰博
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.188-196, 1959

糸状虫媒介蚊, 特にアカイエカCulex pipiens pallensの駆除にあたつて, 蚊幼虫, 成虫の室内実験および鹿児島県奄美大島, 愛媛県三崎町での実地試験を行つた.その結果と, 附随して提起されたイエバエのpopulationに関連した二, 三の問題を論じた.1. Culex pipiens pallens, Aedes aegypti, Aedes albopictus, Armigeres subalbatusの幼虫について, 各種殺虫剤の乳剤について, スクリーニングテストを行つた結果, parathionについでdieldrin, 有機燐製剤が有効であつた.さらに水中における残効性を試験したところ有機塩素剤が安定, 有効であつた.2.アカイエカの静止場所とdieldrinの残留効果について室内実験を行つたところ, 比較的暗い, 垂直な面に繋留し, 残留効果については, 薬剤残留面に繋留した蚊の多数が噴霧しない室に入つて死亡することを観察した.3.直接滴下法により蚊成虫の薬剤に対する感受性を調べた結果, 幼虫と成虫の感受性の間に大きな差があることがわかつた.Busvine-Nashの接触法では2時間接触させ24時間後に死亡数を観察する方法が最も良好であつた.4.愛媛県三崎町, 二名津, 松両部落でdieldrinの残留噴霧を行つた.対照地区として両部落から約3km離れた明神部落をとり, 薬剤散布4カ月後直接滴下法でイエバエの薬剤に対する感受性を調べた所, dieldrin, lindaneについて撒布部落のハエは対照地区のものに比較して若干低かつた.しかし, これがdieldrin噴霧によるものかどうかについては判然としない.奄美大島, 網野子, 仲勝両部落でdieldrinの残留噴霧を行つた約4カ月後, 抵抗性の検定を行つたところ, 抵抗性を生じてはいなかつた.5.奄美大島仲勝, 有屋部落において6月30日にdieldrinの残留噴霧を行い, 蚊に対しては, 非常に有効であり, 現地人の話では一夏の間有効であつた.6.愛媛県三崎町二名津部落で行われたdieldrin残留噴霧も蚊には長期著効があつたがイエバエに対する効果は, 大体1カ月であつた.しかし, その後に, イエバエの異常発生があつた.7.奄美大島四部落においても同様な現象があり, イエバエ駆除の為に第2回の薬剤撒布を行つた.その結果第1回撒布でdieldrin, , 第2回撒布でDDTを使用した場合のみ有効であつた.しかし, その理由は, イエバエのdieldrinに対する抵抗性の増大によるものとは認められず, むしろ撒布量の少なかつたことに問題があるようである.