著者
佐々木 徹郎
出版者
Japan Academic Society of Mathematics Education
雑誌
数学教育学研究 : 全国数学教育学会誌 (ISSN:13412620)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.25-31, 2005 (Released:2019-01-17)
参考文献数
15

数学の架空性は,数学が発展する上で,重要な役割を担っている。そのため,子どもが数学を学習するときに,理解できなくなる難所になることが多い。数学学習の過程において,どこでどのように架空性が生まれるのかを考察した。中学校1年生が「一次方程式」を学習する中で,「架空性」の問題が生じた事例を取り上げた。「創発モデル」の理論における「意味の連鎖」を用いて,それを分析した。その結果,「記母」が「記子」に結びつく過程,つまり記号化の過程の中で,架空性が生まれることがわかった。つまり,それぞれの記号化の中では,何らかの架空性が生じているのである。したがって,学習内容が現実的か架空的かは,本質的に個々人が,そのことを認識するかどうかに依存している。つまり,相対的なものである。また,架空性そのものが,必ずしも理解困難とは限らない。記号化が理解の助けとなることと同様に,数学的理解の助けになることもある。さらに,数学の学習において必ず現実的なモデルから始める必要はない。創発モデルは,個々の単元の中だけで,構想されるべきではない。数学の長期にわたる学習を全体論的に想定すべきである。