著者
小川 大輔 中嶋 信美 玉置 雅紀 青野 光子 久保 明弘 鎌田 博 佐治 光
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.41-50, 2005-03-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
47
被引用文献数
2

オゾンは光化学オキシダントの主要成分で強い酸化力を持ち, 農作物や樹木を枯らす等の被害をもたらしている。一過的に0.2ppm以上の高濃度のオゾンにさらされた植物の葉では, 可視的な障害が発生する。その可視障害は, オゾン暴露後に合成される植物ホルモン (エチレン, サリチル酸, ジャスモン酸) によって調節されていると考えられている。植物ホルモンは, 植物の成長分化, あるいはストレス応答に重要な物質で, 多岐にわたる反応を誘導する。近年, 遺伝子組換え技術によって植物の形態や生理機能を内在的に変化させた形質転換体を用いた解析や, シロイヌナズナの植物ホルモンの合成, シグナル伝達欠損変異体を用いた解析から, オゾン暴露時の植物ホルモンの役割が明らかにされはじめている。本総説では, エチレン, サリチル酸, ジャスモン酸がどのように合成され, どのような反応, シグナルを誘導するのかを紹介した。
著者
中嶋 信美 西沢 徹 玉置 雅紀 青野 光子 久保 明弘 佐治 光
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.909, 2006

除草剤耐性遺伝子組換えセイヨウアブラナ(以下GMセイヨウアブラナ)の一般環境中での生育状態の把握を行うことを目的として、関東地方の幹線道路沿いや河川敷に生育しているセイヨウアブラナ(<I>Brassica napus L.</I>)やカラシナ(<I>Brassica juncea L.</I>)の種子を139地点から採取した。種子を閉鎖系温室で播種し、除草剤耐性試験と除草剤耐性遺伝子の存在を調べた。その結果、鹿嶋港の5 地点および国道51号線沿いの8地点からグリホサート(商品名:ラウンドアップ)耐性GMセイヨウアブラナが検出された。これらの個体よりDNAを抽出して、グリホサート耐性遺伝子の有無を確認したところ、1地点を除くすべての個体でグリホサート耐性遺伝子が確認できた。また、鹿嶋港の1地点、国道51号線沿いの2地点及び国道124号線の1地点でグルホシネート(商品名:バスタ)耐性GMセイヨウアブラナが検出された。これらの植物ではグルホシネート耐性遺伝子が1地点を除くすべての個体において確認できた。一方、上記以外の地点から採取した種子からは除草剤耐性個体は検出されなかった。以上の結果、鹿島港、国道51号線および国道124号線沿いにはGMセイヨウアブラナが生育していたと考えられ、それらは輸入した種子が輸送中にこぼれ落ちたことに由来すると考えられる。
著者
近藤 矩朗 佐治 光
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.273-288, 1992-11-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
122
被引用文献数
4

大気汚染物質は植物の葉の表面にある気孔を通して植物に吸収される。吸収された汚染物質は細胞内で毒物を生成して生体物質に損傷を与え, その結果, 光合成機能を阻害して成長を抑制したり, クロロフィルや脂質を破壊して細胞の壊死を引き起こす。植物の障害の程度は, まず第一に, 大気汚染物質の吸収口である気孔の開度によって支配される。吸収された大気汚染物質は, 二酸化硫黄 (SO2) の場合は亜硫酸 (SO3 2-), 二酸化窒素 (NO2) の場合は亜硝酸 (NO2-) 等の毒物を生成する。オゾン (O3) の場合はO3そのものが毒物として働く。更に, 大気汚染物質の種類によらず反応性の高い活性酸素が生成され, 強力な毒性を示す。植物にはこれらの毒物を解毒するための代謝系が存在し, 低濃度の大気汚染物質に対してはある程度まで耐えることができる。したがって, 植物における毒物の生成速度と解毒能力のパランスによって, 大気汚染物質による障害の程度は左右される。また, 植物にはこれらの毒物から自身を守るための動的な防御反応がある。植物は, 大気汚染物質に触れた時に, 気孔の開度を減少させたり増大させたりする。植物が大気汚染物質に反応して気孔開度を減少させる能力は植物ホルモンのアブシジン酸によって制御されており, 大気汚染物質に対する植物の一種の防御機能と考えられる。植物を低濃度の大気汚染物質と接触させると, 植物体内で活性酸素の解毒に関与する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ, グルタチナンレダクターゼ, アスコルピン酸ペルオキシダーゼ, カタラーゼ等の活性が増加する。また, 植物をNO2と接触させると, 硝酸レダクターゼの光による誘導が抑えられて, 毒物であるNO2-が植物葉内に蓄積するのが抑えられる。これらの知見をもとに, 遺伝子操作などにより大気汚染物質由来の毒物の解毒に関与する酵素の活性を変えて, 大気汚染物質に対する植物の耐性を改変しようとする試みがなされている。