- 著者
-
近藤 矩朗
佐治 光
- 出版者
- Japan Society for Atmospheric Environment
- 雑誌
- 大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.6, pp.273-288, 1992-11-10 (Released:2011-11-08)
- 参考文献数
- 122
- 被引用文献数
-
4
大気汚染物質は植物の葉の表面にある気孔を通して植物に吸収される。吸収された汚染物質は細胞内で毒物を生成して生体物質に損傷を与え, その結果, 光合成機能を阻害して成長を抑制したり, クロロフィルや脂質を破壊して細胞の壊死を引き起こす。植物の障害の程度は, まず第一に, 大気汚染物質の吸収口である気孔の開度によって支配される。吸収された大気汚染物質は, 二酸化硫黄 (SO2) の場合は亜硫酸 (SO3 2-), 二酸化窒素 (NO2) の場合は亜硝酸 (NO2-) 等の毒物を生成する。オゾン (O3) の場合はO3そのものが毒物として働く。更に, 大気汚染物質の種類によらず反応性の高い活性酸素が生成され, 強力な毒性を示す。植物にはこれらの毒物を解毒するための代謝系が存在し, 低濃度の大気汚染物質に対してはある程度まで耐えることができる。したがって, 植物における毒物の生成速度と解毒能力のパランスによって, 大気汚染物質による障害の程度は左右される。また, 植物にはこれらの毒物から自身を守るための動的な防御反応がある。植物は, 大気汚染物質に触れた時に, 気孔の開度を減少させたり増大させたりする。植物が大気汚染物質に反応して気孔開度を減少させる能力は植物ホルモンのアブシジン酸によって制御されており, 大気汚染物質に対する植物の一種の防御機能と考えられる。植物を低濃度の大気汚染物質と接触させると, 植物体内で活性酸素の解毒に関与する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ, グルタチナンレダクターゼ, アスコルピン酸ペルオキシダーゼ, カタラーゼ等の活性が増加する。また, 植物をNO2と接触させると, 硝酸レダクターゼの光による誘導が抑えられて, 毒物であるNO2-が植物葉内に蓄積するのが抑えられる。これらの知見をもとに, 遺伝子操作などにより大気汚染物質由来の毒物の解毒に関与する酵素の活性を変えて, 大気汚染物質に対する植物の耐性を改変しようとする試みがなされている。