著者
沼知 寿美子 佐藤 光源
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

メタンフェタミン(MAP)やアンフェタミン(AMP)などの覚せい剤を長期反復投与した際に観察される逆耐性現象(以下逆耐性と略)は,その出現様式,行動内容の変化及び抗精神病薬への反応性の類似から覚せい剤神経病の発症と再発の生物学的機序に関する研究モデルとされている.逆耐性に最も直接的に関連した神経化学的な変化は逆耐性形成動物に覚せい剤を再投与した際のドパミン(DA)作動性神経終末からのDAの過剰放出である.低用量の覚せい剤はドパミントランスポーター(DAT)に作用してDAを細胞外へ輸送する(交換拡散モデル:FischerとCho.1979)と考えられており,最近DATの発現を阻止したマウスでは上記のDA過剰放出や逆耐性が形成されないことが確認された(Girosら,1996)ことから逆耐性形成時にはDATのDA放出機構に何らかの異常が生じている可能性が示唆されている.そこで今回我々はMAP逆耐性形成後断薬7日目の,1.ラット脳線条体を用いてDATに特異的なリガンドである〔^<125>I〕RTI 55の結合実験を行い,逆耐性に伴うDATの変化を検討し,2.定常状態での^<11>C-MAPの脳内動態の変化について検討した.非線形最小二乗法による解析の結果,DATへの〔^<125>I〕RTI 55の特異結合は高親和性,低親和性部位の2つが存在した.解離恒数(Xd)に関しては両群に有意な差は認められなかったが,逆耐性群では高親和性部位の最大結合数(Bmax)が対照群に比較して有意に増加していた(p<0.05,t-test)).しかし,^<11>C-MAPの脳内動態は線条体,側坐核/嗅結節,小脳のいずれの部位でも両群に有意な差は認められなかった.最近,コカイン誘導体で標識されるDATの高親和性部位はDAT機能を反映することが報告されており,今回の結果はMAP逆耐性に伴って少なくとも断薬7日目にはDATの高親和性部位のBmaxが増加し,再投与の際のDA過剰放出の一部に関与することを示唆すものであるが,薬物動態の変化はある特定の神経細胞の変化のみでは説明が困難であると考察した.