著者
片桐 千仭 金子文俊 金子文俊 長嶋 剣 剣 佐﨑 元 元
出版者
低温生物工学会
雑誌
低温生物工学会誌 (ISSN:13407902)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.23-29, 2021 (Released:2021-06-18)

In this short review, we introduce various aspects of insect body lipids, which have been progressively found to have many crucial physiological roles. The body-surface of insects is covered with cuticular lipids, mainly hydrocarbons. The cuticular hydrocarbons are synthesized in specialized cells called oenocytes residing beneath the epidermis. The hydrocarbons synthesized are transported to the outermost layer, wax layer, by the circulating lipoprotein, lipophorin. Although the principal role of the wax layer is the protection of internal body from desiccation, the essential features vary depending on insect species and development stage. The diapausing pupae of large and small cabbage white butterflies change the thickness and unsaturation of their cuticular hydrocarbons from their non-diapausing ones. The cuticular hydrocarbons also contribute to chemical communications. The unsaturated hydrocarbons of male crickets play an important role for sex discrimination before copulation. Modern in-situ surface analytical methods have a potential to provide more abundant and precise information about the structure and physicochemical properties of the cuticular hydrocarbons. Recent ATR FTIR spectroscopic studies indicated the necessity of correction in the phase-separation model of cuticular hydrocarbons proposed by A. G. Gibbs.
著者
村田 憲一郎 佐﨑 元
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.669-674, 2017

<p>雪国に住む人でなくとも,一度はスキーやスケートを楽しんだり,雪だるまやかまくらを作って遊んだ経験があるだろう.また,凍った道を歩くときやアイスバーンで車を運転するときは,滑らぬように大変気を遣う.ちなみに,私たちが雪玉を作れるのは,氷の表面が濡れていることによる毛管接着のおかげである.このように私たちは日常の様々な経験を通して,「氷点下でも氷の表面は濡れている」ことを実感している.</p><p>現在,氷の表面融解として知られるこの現象の研究の歴史は思いのほか古く,電磁気学の祖として名高いマイケル=ファラデーの英国王立研究所での金曜講話(1850年)にまで遡るといわれている.以来,多くの研究者がこの現象に魅せられ,その解明に力を注いできたが,氷上で凍らない水膜―バルク水と区別して擬似液体層と呼ばれる―が発生するメカニズムは,今なお十分に理解されていない.この層の厚さは数ナノメートル程度と極めて薄く,擬似液体層を直接捉え,かつ精度よく測定することが極めて難しいのである.実は,その存在をはじめて実証できたのでさえ1980年代―ファラデーによる考察から一世紀以上を経た後のことであった.</p><p>我々はこの難題に対し,レーザー共焦点微分干渉顕微鏡と呼ばれる独自の光学顕微鏡システムを開発し,厚さ10 nmに満たない氷上の擬似液体層を,その表面揺らぎに至るまで直接可視化することに成功した.すると「百聞は一見に如かず」の格言の通り,従来の表面融解のシナリオでは想定されてこなかった擬似液体層の新たな性質が見えてきた.</p><p>これまで「擬似液体層は均一かつ完全に氷の上を濡らしている」と考えられてきたが,実際は温度と水蒸気圧に応じてその濡れ状態を変化させており,氷表面を平衡状態に近づけると,擬似液体層は濡れ転移により自発的に撥水する,つまり平衡状態では擬似液体層は薄膜として氷を完全に濡らすことができず,結露の如く液滴状になることが明らかになった.その結果,融点近傍であっても系全体の表面自由エネルギーは押し上げられ,擬似液体層は熱平衡下では安定に存在できずに蒸発してしまい,氷表面は乾いてしまうのである.</p><p>その一方で,氷表面がある一定の氷の成長条件もしくは昇華条件を満たしたときのみ,擬似液体層が生成されることが明らかになった.この結果は,擬似液体層が水蒸気から氷へと相転移する過程(もしくはその逆)で過渡的に生み出される中間相であることを強く示唆する.この擬似液体層の相挙動は,表面融解を字義通りにバルクの融解の前駆現象として捉える伝統的立場とは相反するものであり,本研究は長年の謎であった氷の表面融解を引き起こす新しいメカニズムを解き明かすものといえる.</p><p>氷は水とともに地球上にあまねく存在しており,氷が主役になる自然現象は枚挙に暇がない.特に氷の表面融解は,我々に身近な雪玉作りや氷上の潤滑以外にも,凍結によって地面が隆起する凍上現象,雪の形態変化,氷河の流動,オゾンホールの生成プロセス,雷雲での電気の発生機構など,地球寒冷圏での様々な自然現象に関与しているといわれている.本研究により氷の表面融解のメカニズムの一端が明らかになったことで,これらの自然現象の基礎的理解がより深まることが期待される.</p>
著者
佐﨑 元 サルバドール· ゼペダ 中坪 俊一 古川 義純
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.445-449, 2013-08-15 (Released:2013-08-31)
参考文献数
13

Molecular-level understanding of ice crystal surfaces holds the key to unlocking the secrets of various fields. To observe ice crystal surfaces at the molecular level, we developed an advanced optical microscope, and succeeded in visualizing individual elementary steps of 0.37nm in height on ice basal faces. Utilizing this microscope, we also attempted to visualize the surface melting processes of ice crystals. We found the presence of two types of surface liquid phases (quasi-liquid layer phases) that exhibit different morphologies and dynamics on ice basal faces.