著者
倉員 正江
出版者
佛教大学国語国文学会
雑誌
京都語文 (ISSN:13424254)
巻号頁・発行日
no.7, pp.20-31, 2001-05-01

八文字屋本の代表的作者江嶋其磧は、当時近松門左衛門と併称される人気を誇った。近代以降井原西鶴の再評価に伴い、亜流と見なされた其磧の評価は不当に低下した。しかし模倣やコピーの氾濫は成熟した文化の産物である現実は、商業出版隆盛の当時も今も変わらない。近松の時代浄瑠璃の代表作「国性爺合戦」・続編「国性爺後日合戦」と、「国性爺」ブームに刺激されて書かれた其磧の『国姓爺明朝太平記』を比較すると、両者の相違が顕著に窺われる。其磧は安易に浄瑠璃や歌舞伎の見せ場に頼ることを廃し、長編小説としての構想を首尾一貫させることに腐心した。「国性爺」最大の見せ場三段目を改変し、寛仁大度の甘輝将軍像を強調している。さらに「国性爺」の粉本となった通俗軍書『明清闘記」を利用して、長編浮世草子に新機軸を打ち出したのである。
著者
倉員 正江
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成30年度は大河内秀元著『朝鮮物語』の写本・版本の諸本調査を基に、写本成立の背景と流布、版本成立前後の状況と流布を考察した。『朝鮮物語』は秀元が慶長の役(慶長二年〈一五九七〉~三年)に従軍した際の朝鮮における実体験と日記を基に、寛文期(一六六一~)になってから成稿した書である。従来も「続群書類従」「通俗日本全史」の二種類の活字翻刻があり、後年の回想による誇張や文飾も皆無ではないが、内容のリアリティについては相応の評価を得ている。今回の調査で、東京大学史料編纂所蔵押小路家蔵写本が古態を示す点、写本に嘉永二年版本(「通俗日本全史」底本)の系統と「続群書類従」の系統の二種があり、後者巻末に本文の省略がある点、従来ほぼ未紹介の宮内庁書陵部蔵本「武辺叢書」系統の写本は、内容の大概は版本型と一致しているが宛漢字・表記にやや特殊な語彙や傍訓が目立つ点、版本には嘉永二年の刊記を持つ初版本(大本)と再版本(半紙本)があり、ともに伝本は多いが後者は明治期の二代目和泉屋善兵衛の刊行とみなされる点、等の知見が新たに得られた。また版本の序を執筆した儒者藤森弘庵が起用された事情、版元となった江戸の書肆和泉屋善兵衛の初代・二代にわたる動向等、幕末から明治にかけての出版界の状況について考察した。版本の蔵版者となった糸魚川藩家老の佐治信については不明な点も多いが、和泉屋と縁戚関係にある可能性から積極的に出版に関わったとみられる点、早稲田大学図書館蔵『朝鮮物語』は依田学海旧蔵本で岩本贅庵の書入れがあり、知識人の間に外圧による海防意識が高まり、こうした時代風潮が『朝鮮物語』の好評につながった点も浮かび上がった。
著者
倉員 正江
出版者
岩波書店
雑誌
文学 (ISSN:03894029)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.78-90, 2002-05