著者
米林 甲陽 児玉 宏樹
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

水道水中に生じる「トリハロメタン」は、水中フミン物質を起源として水道水の前塩素処理や塩素殺菌によって生成するとされている。しかし、天然水中に存在する「フミン物質」は、生体成分とその分解成分から化学的、生物学的に合成された「難分解性有機物」である。また、天然水中にはフミン物質以外に多量の非フミン物質が共存しており、極めて多様な低分子有機物の混合物である。天然水の塩素処理によって生成するトリハロメタンは、難分解性有機物であるフミン物質ではなく、易分解性の非フミン物質から生成すると考えた方が妥当である。本研究は天然水から分離したフミン物質と、もとの天然水についてトリハロメタン生成能を比較して、トリハロメタンの前駆物質が非フミン物質であることを実証する。淀川水系の4河川(木津川、宇治川、桂川、淀川)の環境基準点において経時的に採水を行い、非イオン性樹脂DAX-8を用いる分画法で、疎水性酸(フミン物質)画分、疎水性中性画分、親水性画分に分離した。各画分と原水を、トリハロメタン生成能の測定条件で塩素処理し、ヘッドスペース法でGCMSを用いてトリハロメタン濃度を定量した。水中フミン物質の大部分はフルボ酸であった。各試水から生成したトリハロメタンの大部分はクロロホルムであった。淀川水系河川のクロロホルム生成能は13〜22μg/Lであった。原水とフルボ酸のクロロホルム生成能を比較した結果、フルボ酸の寄与率は15〜24%であった。フルボ酸は溶存有機物の13〜28%をしめることからフルボ酸からの寄与が選択的に高いとはいえない。しかし、クロロホルム生成能の大部分はフルボ酸以外の画分に起因しており、トリハロメタンの主要な前駆物質はフミン物質ではなく、非フミン物質であることが実証された。
著者
長尾 誠也 山本 正伸 藤嶽 暢英 入野 智久 児玉 宏樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は。重要ではあるがデータの蓄積に乏しく、季節や地域によりその変動幅が大きく、沿岸域での炭素の吸収と放出量の見積もりを行う上で不確定要素の1つと考えられている河川から海洋への有機体炭素の移行量と移行動態を検討するものである。そのために、寒冷、温帯、および熱帯域の河川を対象に、河川流域の特性、植生、気候による土壌での有機物の分解と生成機構・時間スケールと河川により供給される有機物の特性、移行量との関係を難分解性有機物である腐植物質に着目して調べた。泥炭地を有する十勝川、湿原を流れる別寒辺牛川、褐色森林土の久慈川、スコットランド、ウクライナ、インドネシアの河川水中の溶存腐植物質を非イオン性の多孔質樹脂XAD-8を用いた分離法により分離生成し、いくつかの特性について分析を行った。また、河川水中の有機物の起源と移行動態推定のために、放射性炭素(Δ^<14>C)および炭素安定同位体比(δ^<13>C)を測定し、両者を組み合わせた新しいトレーサー手法を検討した。その結果、放射性炭素(Δ^<14>C)は-214〜+180‰の範囲で変動し、土壌での溶存腐植物質の滞留時間が流域環境により大きく異なることが考えられる。上記の検討と平行して、連続高速遠心機により河川水20〜100Lから懸濁粒子を分離し、放射性炭素および炭素安定同位体比を測定した。その結果、久慈川では年間を通してΔ^<14>Cは-19〜-94‰、炭素同位体比(δ^<13>C)は-24.0〜-31.1‰の範囲で変動し、石狩川ではΔ^<14>Cは-103〜-364‰、δ^<13>Cは-25.9〜-34.2‰、十勝川ではΔ^<14>Cは-111〜-286‰、δ^<13>Cは-25.0〜-31.6‰であった。これらの結果は、流域の環境条件および雪解けや降雨による河川流量の変動等がこれら炭素同位体比の変動を支配している可能性が考えられる。以上の結果から、放射性炭素および炭素安定同位対比を組み合わせる新しいトレーサー手法は、河川の流域環境の違いを反映し、移行動態および起源推定のために活用できることが示唆された。また、現時点では、大部分の地域では核実験以前に陸域に蓄積された有機物が河川を通じて移行していることが明らかとなった。