著者
青木 かおり 入野 智久 大場 忠道
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.391-407, 2008-12-01 (Released:2012-03-26)
参考文献数
45
被引用文献数
22 50

本研究は,鹿島沖から採取された長さ約46 mのMD01-2421コアに介在する23枚のテフラについて,岩石学的記載と火山ガラスの主元素組成分析を行い,既知のテフラとの対比を試みたものである.その結果,九州起源のATとAso-4,御岳山を給源とし中部~東北地方に広く分布するOn-Pm1,北関東に分布するAg-KP,南関東に分布するHk-TP,立山カルデラ起源のTt-D,福島県南部と茨城県北部で対比されているNm-Tgが同定された.また,本コアで得られている高分解能の底生有孔虫の酸素同位体層序を使用して,各テフラの噴出年代を算出し,SPECMAP年代に伴う誤差も合わせて示した.対比された7枚のテフラの噴出年代を,報告されている放射年代や花粉分析や海水準変動史から予想されていた噴出年代と比較して議論した.これらはMIS 6.3以降の中部から東北地方南部の標準となるテフラ層序を提供するものである.
著者
木元 克典 佐々木 理 鹿納 晴尚 岩下 智洋 入野 智久 多田 隆治
出版者
日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, pp.90-90, 2010

海水中のライソクライン(Lysocline)や炭酸塩補償深度(CCD)は地質時代を通して深度方向に数キロメートルの範囲で変動してきたことが海底堆積物の研究から明らかにされている。炭酸塩の海底での溶解は、巨視的な観点では深層水の化学的性質、すなわち炭酸塩に対する不飽和度(Ω = [Ca2+][CO32-]/K'sp)によって決まる。過去数十万年間における海水中の炭酸イオン濃度の復元は従来、炭酸塩骨格の保存の良否、炭酸塩含有量の測定や、生物起源粒子の重量比などの方法で見積もることが検討されてきた。しかし、いずれの方法も相対的および半定量的な検討にとどまり、いまだ溶解量の定量化は達成できていない。深海における炭素リザバーとしての重要性は認識されつつも、炭酸塩溶解量についての実質的な研究の進展はほとんど無いため、あらたな指標の開発が求められている。 本研究では、定量的な炭酸塩溶解指標を確立するため、海底に沈積した1つ1つの有孔虫骨格の内部構造に記録されている溶解の履歴に着目する。石灰質有孔虫の骨格断面は、炭酸カルシウムが層状に幾層にも積層されたラメラ(lamellar)構造をなす。骨格が炭酸塩に未飽和な海水にさらされると、骨格中の微量元素の不均質分布のため、溶解しやすい部分から先に溶解し、結果として骨格断面中に構造的欠損(空隙)が発生する。この空隙が増えるか、または大きくなることにより、最終的に脆く崩れ易くなると考えられる。この空隙の数または体積は、炭酸塩溶解量に比例することが予想できるため、この有孔虫"骨密度"を定量化することができれば、炭酸塩飽和度(Ω)に対する溶解量をこれまでになく詳細に、かつ定量的に求めることができる可能性がある。 我々は、このような作業仮説をもとに、マイクロフォーカスX線CTスキャナー(以下MXCT)を用いた有孔虫骨格の3次元構造解析を行い、そのX線透過率から有孔虫骨格の密度を求めるという新たな手法を提案する。MXCTによって再構成された堆積物中の有孔虫骨格には目視や電子顕微鏡観察からでは分からない、内部に存在する明らかな空隙をみてとることができ、堆積後の溶解による可能性が指摘できる。講演では、現生の浮遊性有孔虫や実験室で溶解させた有孔虫骨格のMXCT画像と、その密度変化について議論する。
著者
島村 道代 ヒョン キソン 渡邊 剛 ソ インア ユ チャンミン 入野 智久 杉原 薫 山野 博哉
出版者
日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, pp.29-29, 2009

世界で最も高緯度に位置する、日本の壱岐サンゴ礁より採取されたキクメイシ属サンゴ骨中の酸素・炭素同位体比を分析し、中緯度域における高時間分解能古気候アーカイブとしての可能性を検討した。まず試料は莢壁と軸柱の骨格構造別に分析し、その結果を生育時の環境記録と対比・検討を行った。この結果、軸柱と莢壁は形成のタイミングが異なっており、キクメイシ属サンゴの場合、莢壁の方がより正確に環境を記録することがわかった。また本研究で用いたサンゴ骨格は、骨格構造自体にも成長パターンの季節的変化が見られた。これらの成果を基に、さらに長期に渡る骨格分析を行い、これらを周辺の環境と対比・検討したのでその成果を報告する。
著者
鈴木 健太 山本 正伸 入野 智久 南 承一 山中 寿朗
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

氷期の急激な気候変動やイベントとして,ダンスガード・オシュガーサイクル(DOサイクル)とハインリッヒ・イベント(HE)が知られている.HEの氷山流出がDOサイクルの温暖化を引き起こしたという考えが有力であるが,すべてのDOサイクルの温暖化がHEに対応しているわけではない.またDOサイクルの寒冷化速度は時期によりさまざまであり,その速度の支配因子は不明である.このような疑問を明らかにするには,ローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊と氷山流出イベントを復元する必要がある. 本研究では,過去7万6千年間の西部北極海堆積物層序を確立し,堆積物の起源と運搬過程を推定した.これにもとづきカナダ北極諸島側からの氷山流出イベントを検出し,氷山流出が起きる条件を考察した.また,西部北極海への氷山流出イベントと温暖化との関係,ローレンタイド氷床北極セクターの崩壊と寒冷化速度の関係を考察した.この目的のため,2011年と2012年に韓国極地研究所の砕氷調査船ARAONによって西部北極海チュクチボーダーランドから採取された5本の堆積物コアについて,IRD含有量と鉱物組成,粒度分布,色,GDGT濃度と組成,有機物量の分析を行った. IRD含有量と鉱物組成が西部北極海チュクチボーダーランドの堆積物層序の確立に有用であることが示され,イベント層としてドロマイト濃集層とカオリナイト単独濃集層が認められた.ドロマイト濃集層は9,000年前と11,000年前,42,000~35,000年前,45,000年前,76,000年前に認められ,カナダ北極諸島からの氷山により運搬されたと考えられる.ドロマイト濃集層堆積時は海水準が現在と比較して40mから80m低かった時期に対応していた.ローレンタイド氷床の縁が北極海に達し,かつ北極海が厚い棚氷や海氷に覆われていなかった時期にのみ,ローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊が起きたと考えられる.9000年前のドロマイト濃集層の堆積はH0に,45000年前のドロマイト濃集層の堆積はH5と年代誤差の範囲内でほぼ同時であった.30,000~12,000年前にはローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊は起きておらず,亜間氷期1~4の温暖化には北極セクターの崩壊は関与していないと考えられる.45000年前にはローレンタイド氷床の北極側とハドソン湾側の両方で崩壊が起きたと推定されるが,直後の亜間氷期の寒冷化速度は,他の亜間氷期に比べて長い.ローレンタイド氷床の大規模な崩壊により,氷床の成長に時間がかかり,寒冷化に時間がかかったと考えられる.14,000年前のカオリナイト単独濃集層は,その堆積学的特徴から氷河湖の崩壊に伴う淡水の大量流出により形成された可能性がある.
著者
長尾 誠也 山本 正伸 藤嶽 暢英 入野 智久 児玉 宏樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は。重要ではあるがデータの蓄積に乏しく、季節や地域によりその変動幅が大きく、沿岸域での炭素の吸収と放出量の見積もりを行う上で不確定要素の1つと考えられている河川から海洋への有機体炭素の移行量と移行動態を検討するものである。そのために、寒冷、温帯、および熱帯域の河川を対象に、河川流域の特性、植生、気候による土壌での有機物の分解と生成機構・時間スケールと河川により供給される有機物の特性、移行量との関係を難分解性有機物である腐植物質に着目して調べた。泥炭地を有する十勝川、湿原を流れる別寒辺牛川、褐色森林土の久慈川、スコットランド、ウクライナ、インドネシアの河川水中の溶存腐植物質を非イオン性の多孔質樹脂XAD-8を用いた分離法により分離生成し、いくつかの特性について分析を行った。また、河川水中の有機物の起源と移行動態推定のために、放射性炭素(Δ^<14>C)および炭素安定同位体比(δ^<13>C)を測定し、両者を組み合わせた新しいトレーサー手法を検討した。その結果、放射性炭素(Δ^<14>C)は-214〜+180‰の範囲で変動し、土壌での溶存腐植物質の滞留時間が流域環境により大きく異なることが考えられる。上記の検討と平行して、連続高速遠心機により河川水20〜100Lから懸濁粒子を分離し、放射性炭素および炭素安定同位体比を測定した。その結果、久慈川では年間を通してΔ^<14>Cは-19〜-94‰、炭素同位体比(δ^<13>C)は-24.0〜-31.1‰の範囲で変動し、石狩川ではΔ^<14>Cは-103〜-364‰、δ^<13>Cは-25.9〜-34.2‰、十勝川ではΔ^<14>Cは-111〜-286‰、δ^<13>Cは-25.0〜-31.6‰であった。これらの結果は、流域の環境条件および雪解けや降雨による河川流量の変動等がこれら炭素同位体比の変動を支配している可能性が考えられる。以上の結果から、放射性炭素および炭素安定同位対比を組み合わせる新しいトレーサー手法は、河川の流域環境の違いを反映し、移行動態および起源推定のために活用できることが示唆された。また、現時点では、大部分の地域では核実験以前に陸域に蓄積された有機物が河川を通じて移行していることが明らかとなった。