著者
白石 和也 藤江 剛 小平 秀一 田中 聡 川真田 桂 内山 敬介
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.105-118, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
30

沿岸域の海底火山の活動性を評価するために,海底火山下の構造や物性を効果的に調査する地震探査法の確立を目的に,数値シミュレーションによる合成地震探査データを用いたフィージビリティスタディを行った。本研究では,海域と陸域を横断する測線長30 kmの調査を想定し,沿岸域にある海底火山の過去の活動痕跡あるいは現在の活動可能性を示唆する仮想的な構造を持つ深度10 kmまでの地質モデルを対象とした。このモデルでは,地殻内にマグマ溜りを模した3つの低速度体を異なる深度に設定し,その他には側方に連続的な明瞭な反射面が存在せず,一般的な反射法速度解析で地殻内の速度分布を決定するのは難しい構造とした。まず,作成した地質モデルに対して走時および弾性波伝播の数値モデリングを行い,地震探査で得られる初動走時と波形記録を合成した。そして,これらの合成地震探査データを用いて,初動走時トモグラフィと波形インバージョンによる段階的な解析により,低速度体を含む速度構造を推定した。その後,推定された速度モデルを用いてリバースタイムマイグレーションを適用し,反射波による構造イメージングを行った。また,発振点と受振点のレイアウトおよび低速度体の形状の違いについて比較実験を行った。数値データを用いた解析の結果,段階的なインバージョン解析により深度約6 kmまでの2つの低速度体を示唆する変化を含む全体的な速度構造を適切に捉え,深度領域の反射波イメージングによって3つの低速度体の形状を良好に描像することができた。速度構造の推定には探査深度と分解能について今後に改善の余地があるものの,一般的な反射法速度解析が難しい地質構造の場合には,波形インバージョンによる速度推定とリバースタイムマイグレーションによる反射波イメージングを組み合わせることで,地下構造を可視化するアプローチが効果的であることを示した。併せて,効果的な調査を計画するために,想定される地質モデルにおける最適な観測レイアウトや解析手法の適用性などについて,数値シミュレーションを用いたフィージビリティスタディにより事前検討する事の重要性も示された。