著者
西田 圭吾 内田 亮太
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.675-679, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
16

亜鉛は生命活動に必要とされる必須微量金属元素の1つであり、1960年代に相次いで報告された亜鉛欠乏症が契機となって様々な生体機能における亜鉛の関与が示されている.亜鉛の恒常性は亜鉛トランスポーターやメタロチオネインによって制御されており、主として遺伝子ノックアウトマウスを用いた一連の研究によって哺乳類の初期発生、全身成長、生体防御機能などにおける亜鉛の恒常性の意義が分子レベルで明らかになりつつある.一方、外傷や感染症で皮膚の表皮層が壊されると、止血と炎症から始まる極めて複雑な一連の生体反応が起こる.その治癒にいたるまでの過程を皮膚創傷治癒という.この皮膚創傷治癒に、亜鉛がポジティブに制御していることは古くから知られていた.しかしながら、具体的に亜鉛が皮膚創傷治癒の過程にどのような役割を担っているか十分に理解されていなかった.今回、マスト細胞が放出する亜鉛が皮膚創傷治癒を制御する新しい機序に関して、著者らの研究グループで得られた知見を中心に紹介する.