著者
内藤 親彦
出版者
日本ペストロジー学会
雑誌
ペストロジー (ISSN:18803415)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, 2012-04-30
著者
内藤 親彦 田井 晰
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

ニホントガリシダハバチHemitaxonus japonicus complexの野外個体群を研究対象として、同所性寄主転換と生態種形成機構を解明するために、主として遺伝・化学生態的手法により研究を行い、以下の新事実を得た。1.日本の北緯34度付近の狭い移行地帯(南北約10km)において、イノデ生態種がジュウモンジシダ生態種から、寄主転換と生殖隔離をともなって同所的に分化している。2.寄生転換の主要因である雌成虫の寄主選択性は一遺伝子座支配と考えられ、両生態種は異なる産卵誘引物質を感受している。両化学物質はパルミチン酸メチルに近い揮発性成分であるが、それらの構造決定には至っていない。3.両生態種は外部形態や染色体で区別することはできないが、酸素多型やDNA高度反復列の比較においても、生態種分化に伴う明瞭な変化はみられず、生態種形成の速度が極めて速いか、またはその過程が遺伝的変化とは独立であるかを示唆している。4.同所的生態種形成とその短期確立には、寄主選択機構の他、寄主植物上での同系交配、一方向的選択交尾、条件づけ効果による幼虫の不食化等の諸要因が関与している。一方向的選択交尾は旧生態種から新生態種への遺伝子流入を防ぎ、新生態種の遺伝的独立性を保証する機構であり、それには性フェロモンの介在が実験的に示唆されたが、両フェロモンの同定には至ってない。5.機種転換が一遺伝子座支配による分断選択に起因していることを想定し、ジュウモンジシダ旧生態種の雌に、寄主選択の突然変異因子を含むイノデ派生生態種の雄を交配し、得られたF1雌にさらにイノデ生態種の雄を交配して、イノデのみに産卵、摂食するF2雌を分離することに成功し、生態種形成の実験的再現の可能性を強く示唆した。