著者
内藤 順平
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

この研究課題において、視覚機能に深く関わる網膜神経節細胞の構造とその投射先との間にどの様なチャネルを形成するか、さらにそのチャネルにはどの様な生物学的意味があるのかをオペラント行動を利用して解明することを目的とした。視蓋の特定層に投射する網膜神経節細胞の樹状突起の詳細な形態解析は極めて困難な問題であるが、DiIの逆行性軸索標識とアセチルコリン受容体抗体による蛍光二重標識の結果、免疫標識網膜節細胞はグループIIc、IIIs、IVcに属し、視蓋F層とチャネルを形成した。この内、グループIVcのほとんどが視蓋F層とチャネルを形成することから、F層が動体視の情報処理の責任層となっている可能性が示された。また、グループIcは視蓋のD層と強くチャネルをもち、形態視に関与すると思われる。一方、視床は視蓋とは異なる機能のチャネルを形成した。ペダル押しによるオペラント条件付けはヒヨコでも可能であるが、オペラント行動による形態および色の識別能力をより明確にするために、実験を開始するためのスタートペダルを加え、かつ、手がかりペダルは最初は見えない状態にした。その結果、予め刷り込ませておいた正の手がかりとなる色よりも、実験の際の手がかりペダルの位置によりこだわる傾向を示した。これは我々のオペラント行動によらない色エサ選択実験の結果と符合せず、予期しない結果となった。その説明として、鳥類は後天的な色の刷り込みよりも、生得的に空間内の位置情報により強く惹かれるのではないかと思われる。従って、色についての、恐らくそれ以外でも、オペラント行動による視覚機能の解析には、ヒヨコが位置情報を全く利用できない実験方法を考える必要がある。形態の識別能力は十分明らかにはならなかった。今後も継続して調べる。
著者
松島 俊也 内藤 順平 並河 鷹夫 前多 敬一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

(1) 摂食行動における視覚弁別学習と記銘内容に関する行動学的解析生まれたばかりのヒナ鳥は「何が餌であるか」を生得的には知らない。非選択的に啄んだ後、味覚と視覚との連合によって対象選択性を絞り込む。この一回性回避学習課題は不可逆的でありかつ一回性を持つ点で、広義の「刷り込み」学習と見なされる。啄み行動の頻度に基づいて、物体の諸特徴に関する知覚地図の変化を追跡したところ、苦い物体の忌避カテゴリーが学習初期相(15分〜1時間)は色によって表現されているのに対し、長期相(〜24時間)では形および提示位置に置き換わっていくことがわかった。(2) 大脳視覚連合野における視覚記憶の細胞表現に関する単一ニューロン解析ヒナ鳥の視覚連合野(IMHV核)より、無拘束・覚醒・自由行動下にて、2つ以上の単一ニューロンから同時に数時間以上にわたる神経活動を導出する技術を確立した。上記の視覚弁別課題(一回性回避学習課題)の直前・直後の活動を解析したところ、特徴的なコヒーレント・バースト活動を記銘直後に示すニューロン群を同定した。(3)大脳基底核に共発現する長期増強と長期抑圧に関する神経生理学的解析大脳基底核(LPO核)は回避課題の記憶痕跡が保存されていると考えられている。スライス標本にパッチ電極を適用してLPOニューロンへのシナプス入力を解析した.同一のニューロン群に収束する2群の興奮性シナプスは、両者に加えたシータ・テタヌスが同期した場合に限って、一方の長期増強と他方の長期抑圧が同時に発現した。長期増強はドーパミンD1受容体の活性化を必要とすることから、回避学習の素過程と見なしうる。