著者
前多 敬一郎 大倉 永也 内田 恵美 束村 博子 横山 昭
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
家畜繁殖学雑誌 (ISSN:03859932)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.153-158, 1988 (Released:2008-05-15)
参考文献数
17

乳子による吸乳刺激の代用としての乳腺神経の電気刺激の有用性を検討するため泌乳あるいは発情周期中の雌ラットの乳腺神経をウレタンあるいはチオペンタール麻酔下で電気刺激し,それぞれオキシトシン(OT)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌に及ぼす影響を調べた。泌乳ラットにおける乳腺神経の電気刺激はOTの分泌を促進した。しかし,この電気刺激は発情周期中にあるラットにおいてもそのOTの分泌を増加させた。さらに,伏在ならびに正中神経の電気刺激も泌乳及び正常発情周期中のラットにおいて血中OT濃度を増加させた。これらの神経の電気刺激による血中OT濃度の変化はすべて類似していた。しかし,乳子による吸乳時にみられるような変化とは異なっていた。泌乳ラットにおけるチオペンタール麻酔下における乳腺神経の電気刺激は伏在神経の電気刺激に比較して平均血中LH濃度およびLHパルスの頻度並びに振幅を抑制した。以上の結果から,乳腺神経あるいは他の神経の電気刺激が非特異的に働いてオキシトシン分泌を促進したと考えられる。しかし,LH分泌に関しては伏在神経刺激対照群に比較して乳腺神経の電気刺激により強く抑制されたことから,乳腺神経刺激が吸乳刺激に変わる刺激として用いられる可能性は残されていると考えた。
著者
前多 敬一郎 平林 真澄 井上 直子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ヒトのモデルとして有用な実験動物であるスンクスでは、これまで初期胚操作技術が確立されていなかった。本研究において、スンクスの受精卵採取、偽妊娠誘起ならびに胚移植の確立に成功し、マイクロインジェクション法によりVenus遺伝子をスンクス前核期胚に導入したところ産子を得ることに成功した。Venus遺伝子を発現する個体は未だ得られていないが、今後例数を重ねることにより遺伝子改変スンクスの作出が期待できる。また哺乳類では、霊長類とスンクスでのみ存在が確認されているGnRH2遺伝子を標的とした遺伝子改変スンクスの作出を目指し、スンクスGnRH2遺伝子のプロモーター領域を同定した。
著者
松島 俊也 内藤 順平 並河 鷹夫 前多 敬一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

(1) 摂食行動における視覚弁別学習と記銘内容に関する行動学的解析生まれたばかりのヒナ鳥は「何が餌であるか」を生得的には知らない。非選択的に啄んだ後、味覚と視覚との連合によって対象選択性を絞り込む。この一回性回避学習課題は不可逆的でありかつ一回性を持つ点で、広義の「刷り込み」学習と見なされる。啄み行動の頻度に基づいて、物体の諸特徴に関する知覚地図の変化を追跡したところ、苦い物体の忌避カテゴリーが学習初期相(15分〜1時間)は色によって表現されているのに対し、長期相(〜24時間)では形および提示位置に置き換わっていくことがわかった。(2) 大脳視覚連合野における視覚記憶の細胞表現に関する単一ニューロン解析ヒナ鳥の視覚連合野(IMHV核)より、無拘束・覚醒・自由行動下にて、2つ以上の単一ニューロンから同時に数時間以上にわたる神経活動を導出する技術を確立した。上記の視覚弁別課題(一回性回避学習課題)の直前・直後の活動を解析したところ、特徴的なコヒーレント・バースト活動を記銘直後に示すニューロン群を同定した。(3)大脳基底核に共発現する長期増強と長期抑圧に関する神経生理学的解析大脳基底核(LPO核)は回避課題の記憶痕跡が保存されていると考えられている。スライス標本にパッチ電極を適用してLPOニューロンへのシナプス入力を解析した.同一のニューロン群に収束する2群の興奮性シナプスは、両者に加えたシータ・テタヌスが同期した場合に限って、一方の長期増強と他方の長期抑圧が同時に発現した。長期増強はドーパミンD1受容体の活性化を必要とすることから、回避学習の素過程と見なしうる。
著者
市原 学 那須 民江 上島 通浩 前多 敬一郎 束村 博子
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

18匹の雄F344ラットを6匹ずつの3群にわけ、それぞれに1-ブロモプロパン1000ppm、2-ブロモプロパン1000ppm、新鮮空気を8時間曝露した。16時間後に断頭し、精巣を取り出し、液体窒素で急速凍結した。液体窒素にて冷却しながら凍結精巣をハンマーにて粉砕し、凍結粉末からRNA抽出キットを用いてRNAを抽出した。電気泳動にてRNAの分解がないことを確認し、ラット精巣用DNAマイクロアレイ(DNAチップ研究所)を用いて遺伝子発現の変化を調べた。5082遺伝子中、263の遺伝子が1-ブロモプロパンと2-ブロモプロパンの曝露で共通して抑制されており、それには、S100,Creatinine kinase、glutathione S transferaseが含まれていた。37の遺伝子は1-ブロモプロパン曝露のみによって抑制され、119の遺伝子は2-ブロモプロパン曝露によってのみ抑制されていた。選択した遺伝子の遺伝子発現変化をリアルタイムPCRにより確認した。また、アロマターゼ遺伝子は1-ブロモプロパン,2-ブロモプロパンの曝露により発現が抑制されていた。1-ブロモプロパン曝露によって、ナトリウムチャンネル関連遺伝子の誘導、ATP結合、イオンチャンネル系の抑制、2-ブロモプロパン曝露により、DNA損傷関連遺伝子が誘導されており、1-ブロモプロパンが神経毒性が強く、2-ブロモプロパンが精租細胞アポトーシスを誘導するという過去の実験結果を説明するものであった。
著者
難波 陽介 中務 桂佑 説田 章平 大石 真也 藤井 信孝 若林 嘉浩 岡村 裕昭 上野山 賀久 束村 博子 前多 敬一郎 大蔵 聡
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.54, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】キスペプチンは,Kiss1遺伝子にコードされ,性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌刺激因子として注目されている神経ペプチドである。我々はウシKiss1遺伝子のcDNA塩基配列を同定し,ウシ型キスペプチンが53アミノ酸残基からなると推定した(第101回日本繁殖生物学会大会)。また,黒毛和種成熟雌ウシにおいて,ウシ型キスペプチンC末端部分ペプチドの末梢投与が黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を刺激することを示した(第102回日本繁殖生物学会大会)。本研究では,ウシにおけるキスペプチンの生理作用についてさらなる知見を得るため,全長ウシ型キスペプチン(bKp-53)の末梢投与によるLHおよびFSH分泌に対する効果と,第1卵胞発育波における主席卵胞の発育刺激効果を検討した。【方法】動物は黒毛和種成熟雌ウシを供試した(n=5)。プロスタグランジンF2α投与により誘起した発情日をDay 0とした。Day 5に,bKp-53 (0.2 nmol/kg)またはGnRH (0.2 nmol/kg)を静脈内投与した。投与前4時間から投与後6時間まで10分間隔で採血し,血漿中LHおよびFSH分泌動態を調べた。また,実験期間を通じて毎日,主席卵胞の直径を超音波診断装置により測定した。【結果】bKp-53の静脈内投与により,LHおよびFSH分泌の一過性の亢進がみられたが、主席卵胞は排卵しなかった。一方,GnRHの静脈内投与により,LHおよびFSH分泌は顕著に亢進し、投与後30時間から42時間までに主席卵胞の排卵を確認した。以上より,GnRHによる強力な性腺刺激ホルモン分泌刺激効果とは異なり、ウシにおいてキスペプチンはLHおよびFSH分泌を緩やかに亢進させる可能性が示唆された。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。