著者
松島 俊也 内藤 順平 並河 鷹夫 前多 敬一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

(1) 摂食行動における視覚弁別学習と記銘内容に関する行動学的解析生まれたばかりのヒナ鳥は「何が餌であるか」を生得的には知らない。非選択的に啄んだ後、味覚と視覚との連合によって対象選択性を絞り込む。この一回性回避学習課題は不可逆的でありかつ一回性を持つ点で、広義の「刷り込み」学習と見なされる。啄み行動の頻度に基づいて、物体の諸特徴に関する知覚地図の変化を追跡したところ、苦い物体の忌避カテゴリーが学習初期相(15分〜1時間)は色によって表現されているのに対し、長期相(〜24時間)では形および提示位置に置き換わっていくことがわかった。(2) 大脳視覚連合野における視覚記憶の細胞表現に関する単一ニューロン解析ヒナ鳥の視覚連合野(IMHV核)より、無拘束・覚醒・自由行動下にて、2つ以上の単一ニューロンから同時に数時間以上にわたる神経活動を導出する技術を確立した。上記の視覚弁別課題(一回性回避学習課題)の直前・直後の活動を解析したところ、特徴的なコヒーレント・バースト活動を記銘直後に示すニューロン群を同定した。(3)大脳基底核に共発現する長期増強と長期抑圧に関する神経生理学的解析大脳基底核(LPO核)は回避課題の記憶痕跡が保存されていると考えられている。スライス標本にパッチ電極を適用してLPOニューロンへのシナプス入力を解析した.同一のニューロン群に収束する2群の興奮性シナプスは、両者に加えたシータ・テタヌスが同期した場合に限って、一方の長期増強と他方の長期抑圧が同時に発現した。長期増強はドーパミンD1受容体の活性化を必要とすることから、回避学習の素過程と見なしうる。
著者
松島 俊也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

鶏雛(ヒヨコ)を対象として実験心理学的に統制された行動実験を実施し、動物の採餌選択における文脈依存性に関して、以下の3点の知見を得た。1. ヒヨコはリスク感受性を示し、量のリスクを嫌う。2. 収益逓減の強さに応じて、餌パッチからの離脱を決定している。3. 競争採餌の条件は、異時点間選択における衝動性を亢進する。このように、ヒヨコは採餌状況の文脈に応じて採餌決定を適応的に変化させることが判明した。
著者
松島 俊也 青木 直哉
出版者
日本認知科学会 = Japanese Cognitive Science Society
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.177-187, 2005-09

孵化後1週間のニワトリのヒヨコは、餌によって強化される色弁別課題を容易に獲得する。連合が成立した後に二つの色手がかりの択一選択を行わせたところ、短期的な採餌効率を正しく予期して選択することが分かった。さらに大脳の腹側線条体・側座複合(基底核)と弓外套腹側部(大脳連合野のひとつ)は、採餌効率の予期値の異なる時間因子に預かることが判明した。基底核を破壊すると、餌までの待ち時間を忌避するように選択がシフトした。他方、連合野を破壊した場合には、採餌局面における処理時間を忌避するように選択がシフトした。以上の結果から、ヒヨコの選択は①待ち時間(報酬遅延)と処理時間(労働コスト)の和を分母とする採餌効率の予期値に基づくこと、②これら二つの時間要素は脳内の別の領域に神経的基盤を持ち、神経生態学的に独立な因子であること、が判明した。Week-old chicks quickly learn to peck colored beads when reinforced by food rewards. In binary choice tests, the trained chicks made choices based on anticipated values of foraging efficiency. Two forebrain regions proved to be involved in the anticipation, i.e., ventral striatum / nucleus accumbens complex (basal ganglia) and arcopallium (an association area of lateral forebrain). Localized lesions of the basal ganglia caused an impulsive choice away from a long waiting time. On the other hand, lesions of the association area caused an impulsive choice away from a long consumption time. These results suggest that 1) chicks make choices based on foraging efficiency, in which sum of the waiting time (or time-to-reward) and the consumption time (or work cost) serve significant denominator, and 2) these two time domains have distinct neural substrates, thus are assumed to be neuro-ecologically distinct factors.