著者
冨菜 雄介
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.132-143, 2015-09-01 (Released:2015-09-16)
参考文献数
36

発達した付属肢をもつ動物の多くは,採餌行動において目標指向的に制御される巧みなマニピュレーション行動を示す。筆者は目標指向的に制御されるマニピュレーション行動の神経機構の理解を目指し,海産大型甲殻類であるアメリカウミザリガニ(Homarus americanus,ロブスター)を実験動物として採用した。ロブスターでは左右の第一胸脚のうち片方がクラッシャーと呼ばれる大鋏に分化しており,採餌文脈においては貝の殻を割り砕く行動(グリッピング)において使用される。筆者はこのグリッピング行動に着目し,行動に対して餌を提示する報酬型オペラント条件付け実験系を適用することで行動頻度の制御が可能であることを示した。また,光弁別刺激を手がかりとしてそのタイミングを制御可能であることを明らかにした。さらに,慢性筋電図解析を行うことで目標指向的に開始されるグリッピング行動を運動出力レベルで特徴付けることに成功した。本稿で紹介する一連の研究は,微小脳動物における目標指向的なマニピュレーション行動を神経生理学的に解析するための基盤を開発した開拓的取り組みとして位置づけられる。
著者
冨菜 雄介 Daniel A. WAGENAAR
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.168-177, 2018-12-25 (Released:2019-01-21)
参考文献数
16

本技術ノートでは,2台の蛍光顕微鏡を上下に組み合わせて作製した両側型顕微鏡を利用することで可能となった網羅的膜電位イメージング法を紹介する。材料はチスイビル類(医用ビル; Hirudo verbana)の体節神経節である。ヒルの体節神経節はその背腹表面の2層に総計約400個のニューロンの細胞体が分布する。単離した神経節の背側と腹側に分布するニューロン群を膜電位感受性色素で染色し,この2層から同時に膜電位イメージングする手法(両側膜電位イメージング法)を適用した。また,新規な膜電位感受性色素VoltageFluorを用いることで,カルシウムイメージングでは検出の困難な閾値下脱分極性シグナルや過分極性シグナルを良好なS/N比で記録することが可能となった。今後の課題は,褪色を避けながら長時間イメージングを行うこと,セミインタクト標本において膜電位イメージングを行うこと等である。
著者
冨菜 雄介
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

神経回路を構成するニューロンが複数の行動や知覚において機能する場合、これを 多機能性ニューロン(multifunctional neuron)と呼ぶ。本研究では「生理学的知見と解剖学的知見の“直接的”な融合」という視点に立ち、多機能性神経回路の機能 を支えるメカニズムを生物学的に理解を目指す。そのため、これまでに取得した大規模なヒル神経系の機能的コネクトームデータをモデルとして、 多機能性神経回路網が多様な行動を生成するための神経基盤の解明を目指す。具体的には、「多機能性ニュ ーロン群は各行動に対応したシナプス電位統合部位を有する」という仮説を検証する。