著者
澤井 志保 暁 清文 秦 龍二 出崎 順三 朱 鵬翔
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

虚血性難聴モデル動物に骨髄造血幹細胞を用いた再生治療を試みた。内耳虚血負荷を加えた砂ネズミに骨髄造血幹細胞を内耳に移植すると、聴性脳幹反応(ABR)の虚血性障害が有意に改善した。更に蝸牛を摘出し、有毛細胞の細胞死の有無を検討すると、幹細胞治療群で有意に内有毛細胞の虚血性細胞死が抑制されていた。次いで細胞死抑制機構における骨髄造血幹細胞の役割を検討するために、骨髄造血幹細胞を蛍光色素でラベリングし経時的に細胞動態を調べると、内耳に移植された骨髄造血幹細胞は鼓室階に留まっており、内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合した骨髄造血幹細胞は見いだせなかった。従って内耳虚血障害では、骨髄造血幹細胞が有毛細胞に再分化したり障害有毛細胞と融合して、有毛細胞を再生する可能性はほとんどないと考えられた。一方幹細胞は多分化・自己再生能以外に各種栄養因子を分泌することが知られている。そこで各種栄養因子を調べてみると、骨髄造血幹細胞治療群の蝸牛では有意にglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)のタンパク量が増大していることが明らかとなった。以上のことより、骨髄造血幹細胞は内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合するのではなく、内耳でのGDNFの発現を増大させることで虚血性内耳障害を軽減させることが明らかとなった。今回の検討では残念ながら骨髄造血幹細胞からは有毛細胞の再生は認められなかった。そこで現在有毛細胞自身の再生を目指して、胚性幹細胞を用いた分化誘導実験を行っている。これに成功すれば有毛細胞を直接再生することが可能となり、再生治療の新たな手法を開発できるものと考えられる。