著者
出雲 孝
雑誌
情報学研究 = Studies in Information Science (ISSN:24322172)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-16, 2019-03-31

近年、ロボットやいわゆる人工知能の商業利用が、ますます注目を集めている。この種の無人取引を安定化させるためには、利用者の法的責任をできる限り客観的に定める必要がある。その一手段として、人格付与も含めた特殊な法的地位の創設が議論されている。けれども、ロボットやいわゆる人工知能に法的な地位を付与する案に対しては、時期尚早との根強い反対がある。本論文は、イタリアの法学者ウゴ・パガロが提唱した「デジタル特有財産(英:digital peculium)」という新しい法概念にもとづいて、古代ローマにおける奴隷の主人の責任とロボット所有者の責任とを比較し、法的な地位の付与を伴わないルール作りを模索するものである。その中心的なコンセプトは、自律的な人工物に対して一定額の特有財産を付与し、この価額を当該人工物の所有者の責任上限とすることにある。このような責任上限の設定は、日用品の自動購入や自動倉庫の管理等に、法的安定性をもたらすことが期待される。
著者
出雲 孝
雑誌
情報学研究 = Studies in Information Science (ISSN:24322172)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-19, 2018-03-31

本稿は、カント『法論』における著作権の概念、とりわけ出版権を巡る議論を概観し、現在検討されている違法アップロードサイトのブロッキングの是非等に、法思想史上の知見を提供する試みである。情報は、有体物とは異なり、一度流出・拡散すると原状回復が非常に困難になるという性質を有する。違法アップロードの削除やブロッキングは、有体物の取戻しと同様に、できる限りの原状回復を目指す手法であるが、ここには情報法を何らかのかたちで物権法と対応させるアナロジーが働いている。しかし、17・18世紀に活躍した近世自然法論者のクリスティアン・トマジウス(1655-1728年)および彼の私法論から影響を受けた哲学者のイマニュエル・カント(1724-1804年)は、情報等の有体的コントロールが効かないものについては、金銭的解決を行う方が適切であると考えていた。本稿では、この洞察が法学的・哲学的にどのような裏付けを有していたのかを解明し、情報法の客体が情報そのものではなく、情報を巡る当事者の利害であることを明らかにする。
著者
出雲 孝
雑誌
情報学研究 = Studies in Information Science (ISSN:24322172)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-19, 2018-03-31

本稿は、カント『法論』における著作権の概念、とりわけ出版権を巡る議論を概観し、現在検討されている違法アップロードサイトのブロッキングの是非等に、法思想史上の知見を提供する試みである。情報は、有体物とは異なり、一度流出・拡散すると原状回復が非常に困難になるという性質を有する。違法アップロードの削除やブロッキングは、有体物の取戻しと同様に、できる限りの原状回復を目指す手法であるが、ここには情報法を何らかのかたちで物権法と対応させるアナロジーが働いている。しかし、17・18世紀に活躍した近世自然法論者のクリスティアン・トマジウス(1655-1728年)および彼の私法論から影響を受けた哲学者のイマニュエル・カント(1724-1804年)は、情報等の有体的コントロールが効かないものについては、金銭的解決を行う方が適切であると考えていた。本稿では、この洞察が法学的・哲学的にどのような裏付けを有していたのかを解明し、情報法の客体が情報そのものではなく、情報を巡る当事者の利害であることを明らかにする。