著者
前川 真由子
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.71-118, 2017-09-29

本論は人々が考える「理想的なオーストラリア」を同国の反捕鯨思想の中から考察していくものである。長らくオーストラリアでは反捕鯨思想が広く支持されており,鯨に対する人道主義的な立場が取られてきた。先行研究では鯨に対する人道主義を,モラル・キャピタルといったトランスナショナルな反捕鯨思想の広がりの中で展開されてきた概念と共に考察し,動物との関係性から西洋近代的な人間像を追求していく人々の様子を明らかにしている。一方で本論は先行研究に依拠しながらも,これまでの議論では言及されることの少なかったオーストラリアに特有の歴史的,政治的,地理的な文脈から,同国で高まる反捕鯨の社会的背景を紐解いていく作業を試みたい。特に,「われわれのオーストラリア」や「われわれオーストラリア人」といった人々が想像する理想的なオーストラリアが,鯨を含む自然を媒介にして描かれる様子を彼らの語りから分析していく。