著者
中村 圭介 前浦 穂高
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.113-136, 2004-11-12

地方公務員(非現業)の労働基本権は制約されている.まず争議権は否認されている.団体交渉権は認められているものの,交渉事項は労働条件などに限られており,また団体協約を締結することは認められていない.しかし,法解釈によれば,組織,政策など管理運営事項について,当局側が任意に労働組合と意見交換を行い,それによって得られる情報を行政の円滑な運営に役立てることはさしつかえないとされている.本稿ではある県と市で生じた組織再編-農業改良普及センターの再編統廃合とワンストップサービス実現のためのグループ制の導入-をめぐる労使協議の実態を探った.主要な発見は次の点である.第1に,労働組合はいずれのケースでも,関係職場の組合員の声を吸い上げ,当局側と協議を行っている.第2に,労働組合のスタンスは建設的である.農業改良普及センターの事例では,自らの普段の仕事を冷静にみつめなおし,独自の組合案を作成し,グループ制導入の事例では,それによる組織機構の歪み,非効率を指摘している.第3に,こうした労働組合の真しな意見を当局側が聞き入れるかどうかが労使協議の成果を左右する.組織再編は組合の意見を聞き入れ当初案を修正した県では成功し,そうすることのなかった市では失敗に終わっている.