著者
工藤 朝子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.244, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 幼児期の子どもは、成功や失敗を漠然と感じることはできるが、自身の行動を客観的に捉えることは難しく、身近な人の言動に影響を受けながら自己のイメージを築いていく。しかし、発達障害を持つ子どもの多くは、共感性の乏しさや独自の解釈などにより、周囲の言葉をうまく取り入れられないことがある。 今回、自信の無さから課題に取り組めない事例に対し、課題の調整のみでは変化が見られず、関わり方を配慮したところ、取り組みに変化がみられたので報告する。なお、報告にあたりご家族の同意を得ている。【症例紹介】 地域の保育園に通う5歳男児。診断名は言語発達遅滞、発達性協調運動障害。田中ビネー知能検査ファイブIQ99。興味の限定や儀式的な行動がみられるが対人面は良好である。ADLはFIM96/126点で、環境やその時の気分により遂行に差がある。体幹の支持性が乏しいため、机上課題では姿勢の保持が難しく片方の手を支持に使う。鉛筆は握り込み、肩関節の動きで、ぬりえや自由画などを行う。視知覚検査では、年齢相当から2歳程度の遅れを示すものまであり、項目間の差が大きい。作業療法場面では、ぬりえ課題の背景や図柄・線の太さの段階付けを行ったが、失敗ばかりを気にして、賞賛や励ましを聞き入れられず、課題に取り組めない。ぬりえに取り組めない状態は、自宅や保育園でも同様である。【方法】 作業療法士(以下OT)は、子どもの課題に対する自発性を育てる目的で、児の思いを尊重する関わりを行う。関わりは、OTが「ここは線からはみ出ていないね」など、上手くできている部分を具体的に児に伝え、反応を待つ。うなずきなどの共感的な反応がみられたときに限りさらに褒める。【経過および結果】 作業療法を5ヶ月間、全8回実施。児は、2回目まで自発性に乏しく、OTの言葉にもほとんど反応しなかった。3回目以降は、課題に自発的に取り組んだ。OTの言葉には反応しないこともあったが、少しずつ共感することが増えた。7回目からは、よくできたところを自ら指差し、周囲に伝えるようになった。なお、自宅や保育園でもぬりえや自由画に取り組むようになった。【考察およびまとめ】 今回OTは、児が持つ達成感に注目して肯定的な視点を伝え、児が肯定的なイメージを持ったと確認できたときのみ賞賛を行った。そのことで、児は失敗だけでなく成功した部分にも気づけるようになり、OTの言葉を受け入れられるようになったと考える。結果、児の上肢機能などに大きな変化はなかったが、課題に対して自信を持つことができ、自発的に取り組めるようになったと考える。OTは、課題の調整だけでなく、子どもが持つ達成感を尊重し、成功体験を積む機会が得られるように支援することが重要である。
著者
山本 隆人 毛井 敦 松崎 哲治
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.98, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 排泄行為は在宅生活を支援する上で最も回数が多く、重要な行為である。しかし、動作面ばかりに着目されがちであり、症状への対処が優先されることが多い。対処方法では、根本的な問題解決にはならないばかりか、返って問題が複雑化することがある。排泄へのアプローチは、行為のどの部分に問題が生じているか、そしてそれが生活全体にどのような影響を与えているかをアセスメントし、問題点を明確にしてアプローチすることが重要である。そこで、『排泄サポートチーム』を発足させ、独自のアセスメントシートを作成し、チームでの取り組みを通して現状の課題と今後の展望について検討したため報告する。【当センターでの排泄行為支援における課題】 当センターでの排泄行為支援における課題として、アセスメント方法が各職種により統一されておらず、着目点にずれが生じている。また、職種間で話し合いをもつ機会が少なく、排泄行為の課題点や目標が共有しにくくなっている。【取り組み内容】 患者の課題を多角的にアプローチしていくために、Dr、Ns、CW、PT、OT、放射線技師の構成とした。また、多職種が同じ視点でアセスメントを行うためのツールとして、独自のアセスメントシートを作成した。シートの特徴は、運動機能・認知機能・膀胱機能の3つの評価項目があり、『行為』として捉える視点を重要視した。カンファレンスでは、排泄行為の問題点と原因を明確にすることに努めて、知識不足を補うため勉強会も平行して実施した。【考察】 現在、チーム発足から数ヶ月経過したが、シートを活用した適切なアセスメントが行え始めている。アセスメントでは、運動機能、認知機能、膀胱機能のどの部分に課題があり、排泄行為が阻害されているのかを明確にし、多職種でどのようにアプローチしていくのかを共有することが必要である。そして、在宅生活を見据えた上で、患者や家族の身体的・精神的な支援につなげ、QOL向上を図ることが重要である。また、サポートチームではPT・OTが多く参加している。従来セラピストは、専門性から動作面ばかりに目がいきがちであるが、退院後の生活を考慮すると膀胱機能に目を向け、排泄動作ではなく排泄行為としてとらえていくことが必要で、これからのセラピストには、こういう視点が今後求められる。【おわりに】 今後は、アセスメントシートの検討を重ね、排泄行為として捉えていく視点を定着させ、より多くの患者の自宅復帰を支援していきたいと考える。
著者
東 幸児 石橋 達郎 坂本 大和 後藤 良幸 鵜殿 翔太 中村 明生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.73, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 高度外反膝に対するTKAで問題となるのは,変形を如何に矯正し,良いアライメントを得て,機能的な膝を獲得するかである.そのためには機種の選択・軟部組織の処置などが重要となってくる.また膝蓋骨においては術前に外方偏位しており術後トラッキングの不良例が多いとの報告もある.膝蓋骨トラッキング異常は膝関節屈曲制限・大腿四頭筋筋力低下・滑膜炎などの二次的問題を惹起する.今回,高度外反変形膝を呈した症例に二期的に手術を行い膝蓋骨に対する内外側張力バランスに着目し理学療法を行なう機会を得たのでここに報告する.【症例紹介】 氏名I 60歳代 13歳の時に交通事故に会い左大腿骨顆上骨折受傷.保存的に加療を行うが外反位にて変形治癒.徐々に下肢外反強くなりニ次性変形性膝関節症となる.一年ほど前から歩行困難となり当院受診.FTA135度と高度外反位を呈していた.【経過】 術前はX線にて著名な膝蓋骨脱臼を呈していた.first stageとして左膝関節形成を目的にTKA・腸脛靭帯切離・膝窩筋腱切離・外側膝蓋支帯切離を施行.FTA145度に改善するも膝蓋骨脱臼を認めた.second stageとしてアライメント矯正を目的に大腿骨内反骨切り術・脛骨粗面内側移動術・内側支帯縫縮・内側広筋腱縫縮術を施行.FTA165度・膝蓋骨傾斜角11度に改善した.術後18ヶ月膝蓋骨傾斜角12度.【考察】 本症例では高度外反変形矯正による軟部組織の機能改善が大きな問題となった.一般的に外反膝の矯正では膝関節内側組織の弛緩状態・外側組織の短縮が問題となる.本症例においてもFTA135度の高度外反変形膝を矯正したことにより内側広筋の弛緩,腸脛靭帯・外側広筋の短縮を呈した.軟部組織処理として内側広筋腱の縫縮術が行なわれたが内側広筋は収縮を認めるものの筋張力は不十分なものであった.内側広筋は膝関節最終伸展域においてFTA・外側広筋による膝蓋骨外方作用に相反し膝蓋骨固定を得て大腿直筋の伸展作用を効率的に脛骨へ伝える作用がある.内側広筋の機能低下は膝蓋骨外側偏位傾向を強め,膝伸展機構・膝蓋骨トラッキング異常を惹起する.本症例において内側広筋の機能改善は多くは望めないと考え,腸脛靭帯・外側広筋の短縮・大腿筋膜の緊張不均衡による過剰な外側引き付け作用を減じていくことに着目し理学療法を展開した.術後18ヶ月経過後も膝蓋骨の外側偏位の悪化は認めず良好な状態を維持できていた.【まとめ】 TKAにおいては下肢機能改善を図り「長く使える関節」とするかは術後リハビリテーションによるものが大きい.本症例において内側広筋機能不全の影響を最小限にするため,外側広筋・腸脛靭帯・大腿筋膜の緊張不均衡に着目することにより良好な経過をたどることが出来たと考える.今回の発表にあたり本人へ十分な説明を行い同意を得た.
著者
川崎 洋平 前田 英児
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.97, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 長期的な松葉杖歩行は、荷重を受ける上肢へのストレスにより肩・頸部痛を生じ、ADLにおける問題や、QOL低下を生じることがある。筆者もその経験者であり、松葉杖歩行による、肩・頚部痛への問題を感じていた中、大腿骨頚部骨折後に荷重制限を必要とし筆者とよく似た症状を訴える患者を担当した。 本症例を通して、松葉杖歩行により二次的に生じる肩・頚部の痛みに関して検討したので文献的考察を含めて報告する。【症例紹介】 50歳代女性。H23.1.9交通事故により受傷、診断名は右大腿骨頚部骨折(H23.1.11骨接合術施行Twin hook +CCS)。術後6週間まで完全免荷期間であり、当院入院初期(H23.2.8)より移動手段は主に松葉杖歩行であった。 入院当初より頚部から右肩にかけて倦怠感を訴えており、肩甲帯アライメントは右肩甲骨が1.5横指下制。右肩甲挙筋に圧痛、頚部右回旋時に右頚部に運動時痛あり、右側への起き上がり時に痛みを訴えることがあった。 なお、ここで使用する情報に関してはヘルシンキ宣言に基づき、発表することに同意を得た。【考察】 市橋らは、松葉杖歩行による肩周囲の痛みに対しての胸鎖関節の関わりとその治療効果について研究を行っている。市橋らは松葉杖からかかる荷重より、胸鎖関節が荷重関節となり、関節機能異常を起こすことに着目しているが、胸鎖関節だけでのアプローチでは痛みが完全に消失しなかったことを報告している。 本症例の場合、頚部から右肩にかけての倦怠感を訴えている。これは、完全免荷での松葉杖歩行において、右側下肢の立脚相にあたる時期では、両松葉杖支持であっても右側上肢により強い荷重がかかることが予測される。この荷重に耐えるため、右側の小胸筋、広背筋、僧帽筋下部繊維といった肩甲骨下制筋群が過剰な筋収縮を引き起こし、二次的に右肩甲骨が1.5横指下制するというアライメント異常が生じたものと考えた。 肩甲挙筋の圧痛・頚部の運動時痛に関しては、上記の理由により、相対的に持続的な伸張ストレスと遠心性収縮を引き起こし、筋スパズムが生じたと考える。そのため、第1~4頚椎の横突起に起始をもつ肩甲挙筋のスパズムが、頚部右回旋時に頚椎関節面上の滑りを阻害し、運動時痛を引き起こしていたと考える。【考察に基づいたアプローチ】 本症例に対してのアプローチとして肩甲骨下制筋群のストレッチを指導したところ、頚部の運動時痛、肩甲挙筋の圧痛に徐々に改善がみられた。全荷重(術後9週)時期には肩甲骨のアライメントに左右差はなくなり、肩周囲の倦怠感・頚部運動時痛の訴えはなくなった。【結語】 本症例を通して、松葉杖歩行では歩行の安全性や安定性だけでなく、二次的に生じる肩・頚部の痛みについて全般的なアセスメント、アプローチ、メンテナンスを行っていく重要性を感じた。
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 中島 みどり 山下 佳代 山田 一隆 高野 正博
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.3, 2011 (Released:2012-03-28)

【背景】 当院は、大腸肛門の専門病院として、大腸癌、特に下部直腸癌に対する肛門機能温存術が積極的に行われている。術後は、残存骨盤底筋群に対してバイオフィードバック療法(BF)を行い、通常術後3~6か月で一時的人工肛門を閉鎖する。今回、便を貯留させる耐容量の増大を目的として、新たに取り組み始めたバルーン留置訓練を実施した症例を以下に報告する。【症例紹介】 H21年9月に直腸癌(Rb)StageIの診断でParital ISR(D3廓清、根治度A、AN3:右骨盤神経温存、J-pouch)、covering ileostomyを造設された症例A氏(60歳代女性)、人工肛門造設時のWexnerスコア2であり、術後6か月のDefecographyでは、肛門収縮時でも造影剤が漏れており、残存肛門機能の検査結果も併せて人工肛門閉鎖後の便失禁の可能性が高いことが懸念され、主治医より直腸肛門機能訓練を依頼された。【治療経過】 術後1か月目からBFを開始した。術後6か月で安静臥位では残存括約筋の収縮は可能となっていたが、静止圧24.5cmH2O、随意圧72.1cmH2Oと肛門括約筋機能低下、耐容量40ml、体幹筋群との協調的な括約筋の収縮が困難であったため、バルーン留置訓練を開始した。 治療内容は、1)安静臥位でバルーンを挿入した状態での肛門括約筋収縮弛緩の学習、2)抵抗を加えて筋力強化、3)片脚拳上など腹圧上昇課題を与えて持続収縮力の強化、4)抗重力活動での持続力強化の順に進めた。4)では無意識のうちにバルーンが排出されていたが、訓練開始2か月後には、バルーンが自然排出することなく動作時も保持可能となった。静止圧44.9cmH2O、随意圧109.5cmH2Oと内圧上昇し、Defecographyでは収縮時の漏れが減少していた。その後2か月程度訓練を継続し、耐容量は85mlまで上昇。安静時の漏れも改善されてストーマ閉鎖となった。訓練時の空気の量は、最少感覚閾値の20mlから開始し40mlで行った。ストーマ閉鎖後は、本人も驚くほど排便コントロールされており、便失禁を気にせずに旅行にも行け、仕事にも復帰された。【考察】 直腸癌術後の排泄機能訓練は確立されておらず、当院でも筋電図を用いたBFのみを行っていた。今までの人工肛門閉鎖症例の排便状況からは、「便意があったらトイレまで我慢できない。」などの訴えが多く、検査結果からは、静止圧の低下とともに耐容量も低値であったため、バルーンを留置しての運動療法を取り入れた。筋の収縮のみの静的訓練から歩行などの動的な訓練を行ったことで、残存括約筋と体幹筋群の協調的な収縮方法を学習でき、トイレまで我慢できる能力を獲得したことが術後の排便障害を軽減させた要因であると考えられる。
著者
児玉 陽子 宮本 一樹 斉藤 弘道 文 哲也 岩佐 親宏 長 綾子 志波 直人 広畑 優
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.142, 2011 (Released:2012-03-28)

【はじめに】 Paced Auditory Serial Addition Task(以下PASAT)の課題成績は高次の注意機能を反映すると言われているが、難易度が高く対象者のストレスを伴うことがあり、FosらはPASATの変法として視覚的に数字を提示することで難易度を減じたPVSATを報告している。そこで今回、PASAT-1秒・2秒(以下PASAT-1・2)を元にPower Point(Microsoft社)でPVSAT-1・2を作成・使用し、他の注意機能検査と比較検討したので報告する。なお、本研究は大学倫理委員会より承認を得て実施した。【対象】 当院脳神経外科病棟入院中の患者40名(男性16名、女性24名、平均年齢54.0±18.0歳)。【方法】 PVSAT-1・2、PASAT-1・2、及びWisconsin Card Sorting Test(以下WCST)、Trail Making Test partB(以下TMT-B)を施行し、PASAT及びPVSATの結果をWCSTの達成カテゴリー(CA6・CA5・CA4・CA3以下)別・TMT-Bの結果別(正常・要時間・不可)に分けて比較検討した。【結果及び考察】 PASATとPVSATには高い相関があり(PASAT-1とPVSAT-1:r=0.75、p<0.001、PASAT-2とPVSAT-2:r=0.77、p<0.001)、PVSATにおいて有意に値が高く、難易度が低いと考えられた。PASAT-1・2及びPVSAT-1・2各々にWCST別での比較では特にCA6群とCA3以下群の間で有意差を認めた(p<0.001)。TMT-Bの結果別では、正常群・要時間群と不可群の間で有意差(p<0.001)を認めた。TMT-B正常群13名の内、PASAT-1で92.3%(12名)、PASAT-2では76.9%(10名)が年齢平均値以下であった。また、不可群10名の内PASAT-1は30%(3名)、PASAT-2では40%(4名)、PVSAT-1・2では共に90%(9名)が施行可能であった。全体では、PASAT-1で77.5%(31名)、PASAT-2は85%(34名)、PVSAT-1・2では共に97.5%(39名)が施行可能であった。 臨床においては、PASATだけではなくTMT-BやWCSTも理解や運動機能、注意の転導性を要する場合等では施行困難なこともしばしばある。また、PASATはTMT-BやWCSTの注意機能と類似しており、PVSATがPASATとの相関を認められたことから、他の検査が施行困難な場合に注意機能の検査として適応できるのではないかと考えた。また、難易度としては他の注意機能検査と比べPVSATが低いと考えられるため、トレーニングとしての応用も検討していきたい。