著者
坂口 明子 任 智美 岡 秀樹 前田 英美 根来 篤 梅本 匡則 阪上 雅史
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.77-82, 2013 (Released:2013-04-11)
参考文献数
14
被引用文献数
10 15

味覚障害は原因がさまざまであり, 各原因別での改善率や治療期間, 経過の報告は多くない. 今回, われわれは味覚障害患者1,059例を原因別に自覚症状の改善率, 治癒期間について検討した.1999年1月から2011年1月までの12年間に味覚外来を受診した味覚障害例1,059例 (男性412例, 女性647例, 平均年齢60.0歳) を対象とした.全例に問診, 味覚検査 (電気味覚検査, 濾紙ディスク法), 採血 (Zn, Fe, Cu), SDS (Self-rating Depression Scale, 自己評価式抑うつ性尺度) を施行し経過を追った. 治療は亜鉛製剤, 鉄剤, 漢方薬, 抗不安薬などの内服を症状, 程度に応じて行った. また, 自覚症状の程度をVAS (Visual Analogue Scale) により評価した.味覚障害の原因分類では特発性が最も多く192例 (18.2%) であった. 次いで心因性が186例 (17.6%), 薬剤性が179例 (16.9%) であった. 転帰が確定し得た680例で自覚症状の改善率は, 感冒後64/92例 (70.2%), 鉄欠乏性31/35例 (88.6%), 亜鉛欠乏性85/116例 (73.3%) と比較的良好であったが, 外傷性は2/12例 (16.7%), 医原性は13/33例 (39.4%), 心因性は46/100例 (46.0%) と低かった. 平均治癒期間は, 薬剤性で約10カ月間と鉄欠乏性や感冒後と比較すると, 約2倍長期間に渡った. また症状出現から受診までが6カ月以上の例に対し, 6カ月未満の例では改善率が良好で, 回復までの期間は前者が後者と比べると有意に長かった (p<0.05).
著者
中村 匡孝 任 智美 西井 智子 前田 英美 阪上 雅史
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.67-71, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
7

症例は65歳,男性.味覚異常を主訴に当科受診,味覚機能検査において左側に優位な味覚機能低下を認めた.左顔面の知覚低下,舌のしびれを認め,頭痛の増悪もあったため頭部造影MRIが施行された結果,肥厚性硬膜炎と診断された.ステロイドパルス療法を施行され,開始後数日で味覚異常は消失し,味覚検査も正常範囲となった.画像所見や症状,味覚検査より本症例では左側の鼓索神経と舌咽神経の障害と判断された.一側性味覚閾値上昇,かつ複数の脳神経症状が認められる場合は中枢性疾患を積極的に疑う必要があり,本症例では頭部造影MRIが有用であった.
著者
任 智美 梅本 匡則 前田 英美 西井 智子 阪上 雅史
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.31-35, 2017-03-31 (Released:2017-05-31)
参考文献数
10
被引用文献数
3

味覚異常の症状は「味覚低下」や「消失」,「解離性味覚障害」のような量的味覚異常と「自発性異常味覚」や「異味症」などの質的味覚異常に分類される. 障害部位としては受容器障害, 末梢神経障害, 中枢性障害, 心因性に分けられ, 受容器障害の病態としては亜鉛欠乏による味細胞のターンオーバー遅延が一般的である. 電気味覚検査や濾紙ディスク法で定量的, 定性的な味覚機能評価を行い, 病態を把握したうえで味覚障害と診断される. 現在では亜鉛内服療法のみがエビデンスをもつ治療であるが, 漢方の有効性も報告されており, 著効する例も経験する. 味覚異常は時に消化器疾患, 血液疾患, 皮膚疾患, 精神疾患, 神経疾患などが背景に存在する場合もあり, 味覚異常を局所的な疾患として捉えるのではなく, 全身を把握しておく必要があるものと考える.