著者
前門戸 任
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.203-215, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
4

20年前までの肺がん治療は手術,放射線,化学療法の三本柱であったが,2002年から分子標的薬のゲフィチニブ(イレッサ)が上市され,その中で劇的な効果を発揮する患者が活性型EGFR遺伝子変異を有することが2004年に判明した.その後,ゲフィチニブをはじめとしたEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が複数開発され,肺癌治療の一つの柱となった.EGFR-TKI治療の一つの問題点は,耐性遺伝子変異の出現である.この耐性の原因の50%がEGFR耐性遺伝子変異T790Mであり,この遺伝子変異に対する薬剤オシメルチニブ(タグリッソ)が開発され,耐性克服に繋がっている.このオシメルチニブは,活性型遺伝子変異と耐性遺伝子変異の両方に活性を持っているため,現在は初期治療からオシメルチニブが用いられる様になっている. 進行肺がん治療のもう一つの進歩は,免疫チェックポイント阻害剤である.肺がんの場合,ニボルマブを含め4種類のPD-1/PD-L1阻害剤が使用可能となっている.これらの薬剤はがん免疫に対するバリアを外すことで自己の免疫が腫瘍を攻撃してくれるため,がんが正常細胞と異なるがん抗原を出していることが必要である.一番のがん抗原が遺伝子変異により作り出される変異タンパク質であり,これは喫煙者に多いことが知られている.この免疫チェックポイント阻害剤の出現により進行した肺がんでも治癒する患者が出始めている.進行期肺がん治療も延命ではなく,治癒を目指せる時代に移りつつある.
著者
前門戸 任 西條 康夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では研究者がすでに作製しているSLPIプロモーターを用いたアデノウイルス(AdSLPI.E1AdB)の非小細胞肺癌特異的腫瘍の腫瘍選択性についてさらに研究を進め、in vitroだけでなくin vivoにおいてもSLPI分泌非小細胞肺癌で複製されていることをその抗腫瘍効果と同時に観察した。SLPIプロモーターのはたらきをその下流にレポーター遺伝子をつなぎマウスの静脈に投与を行うと、肝臓での発現は僅かにしか認められず、気管内投与でも発現する正常細胞は太い気管支に少数の細胞が認められるのみで当ベクターの安全性が期待できる。次に、非複製アデノウイルスであるAdCMV.NK4(NK4はHGFの分子内断片でありHGFのアンタゴニストとしてのはたらきとHGFに依存しない強力な血管新生阻害作用御もつ)とAdSLPI.E1AdBの併用療法を行った。二つのウイルスが同一SLPI産生腫瘍内に感染したとき、AdSLPI.E1AdBより発現したE1A蛋白がAdCMV.NK4にはたらき、単独では複製しないAdCMV.NK4に複製と発現増強が認められた。また、この併用療法を腫瘍に対し試みると単独療法を凌ぐ効果があり、なおかつ通常の遺伝子治療では効果を発揮することが難しい径が1cmを超える腫瘍に対しても十分な効果を発揮することが出来た。腫瘍組織の分析では、AdCMV.NK4の作用である血管新生阻害の増強が認められた。この二つのウイルスベクターの併用療法は非小細胞肺癌特異的な強力な遺伝子治療として期待できる。