著者
天野 博雄
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.223-228, 2020 (Released:2020-05-31)
参考文献数
6

アトピー性皮膚炎の治療は,副腎皮質ホルモン外用薬,タクロリムス軟膏,保湿外用薬,抗ヒスタミン内服薬の4つが基本である.これらの基本治療を適切に行っても症状が難治な場合に,シクロスポリン内服薬による治療や紫外線療法を行ってきた.2018年にインターロイキン(以下IL)-4とIL-13の両方を抑制する生物学的製剤のデュピクセントが上市されると,重症アトピー性皮膚炎に対する治療は大きく変わった.生物学的製剤の登場により,アトピー性皮膚炎の治療が大きく進歩したことに疑いはないが,治療にあたってアトピー性皮膚炎の診断を適切に行うことは最も重要なことでもある.本稿ではアトピー性皮膚炎の診断と治療について概説する.
著者
鈴木 啓生 大浦 一雅 山原 可奈子 金 正門 田口 啓太 高橋 海 高橋 健太 岩岡 和博 前田 哲也
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.191-204, 2020 (Released:2021-01-31)
参考文献数
50

パーキンソン病における骨粗鬆症は骨折のリスクのため予防が重要である.骨代謝は性別,年齢,栄養状態や活動度に影響される.パーキンソン病は運動障害が主徴であり,これらを一致させた上で比較が必要だが,同様の検討はない.本研究は慢性期脳血管障害を疾患対照とし,骨密度と骨代謝マーカーを用いて病態を検討した.両群50例を前向きに登録した.パーキンソン病は骨密度低値,酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ高値,血清総ホモシステイン高値,活性型ビタミンD低値であった.骨粗鬆症を有する両群間比較ではパーキンソン病は活性型ビタミンD低値であった.パーキンソン病で骨粗鬆症を有する群はない群より女性が多く,body mass index低値,臨床重症度高値,1型コラーゲン架橋N-テロペプチドと酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ高値であった.パーキンソン病の骨粗鬆症の病態には一般的リスクに加え骨吸収亢進とビタミンD関連骨形成不全,パーキンソン病自体の重症度の関与が示唆された.
著者
佐々木 章
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.189-196, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
26

肥満外科手術は, 長期的な体重減少の維持と肥満関連健康障害の改善が内科治療に比べて優れていることが高いエビデンスレベルで証明され,最近では代謝疾患が術後早期に改善することから,メタボリックサージェリー(代謝改善手術)として注目されている.この背景から,米国糖尿病学会のガイドライン2017年板では,2型糖尿病に対する治療において,BMI≧37.5 kg/m2のアジア人では血糖コントロールに関わらず,BMI≧32.5 kg/m2では血糖コントロールが不良な患者に対してメタボリックサージェリーが推奨された.わが国のメタボリックサージェリーの多施設共同研究では,術後3年の糖尿病寛解率は78%と海外よりも良好な成績であるが, 長期成績の検討が課題である.メタボリックサージェリーの糖尿病に対する効果発現の機序については明確となってはいないが,消化管ホルモン,アディポカイン,胆汁酸シグナル,腸内細菌, 臓器連関などの関与が報告されている.
著者
米澤 美希 吉田 雄一 滝川 康裕
出版者
Iwate Medical Association
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.59-67, 2020 (Released:2020-09-09)
参考文献数
22

B型肝炎ウイルス持続感染者における肝発癌の早期診断・発癌予測は困難である.そこで,マイクロアレイを用い,B型肝炎関連肝癌の早期診断に有用なバイオマーカーの候補となる末梢血中のmicroRNAを探索した.B型肝炎のため通院中に肝発癌を来した患者10人(発癌群)の肝発癌時の血清とマッチングさせた非発癌患者10人(対照群)の血清からmicroRNAを抽出し,2群間で有意な差異を認めた5種類のmicroRNA(miR-548aおよびmiR-1281, miR-4634,miR-4646-3p,miR-4659a)を早期診断のバイオマーカー候補として見出した.
著者
前門戸 任
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.203-215, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
4

20年前までの肺がん治療は手術,放射線,化学療法の三本柱であったが,2002年から分子標的薬のゲフィチニブ(イレッサ)が上市され,その中で劇的な効果を発揮する患者が活性型EGFR遺伝子変異を有することが2004年に判明した.その後,ゲフィチニブをはじめとしたEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が複数開発され,肺癌治療の一つの柱となった.EGFR-TKI治療の一つの問題点は,耐性遺伝子変異の出現である.この耐性の原因の50%がEGFR耐性遺伝子変異T790Mであり,この遺伝子変異に対する薬剤オシメルチニブ(タグリッソ)が開発され,耐性克服に繋がっている.このオシメルチニブは,活性型遺伝子変異と耐性遺伝子変異の両方に活性を持っているため,現在は初期治療からオシメルチニブが用いられる様になっている. 進行肺がん治療のもう一つの進歩は,免疫チェックポイント阻害剤である.肺がんの場合,ニボルマブを含め4種類のPD-1/PD-L1阻害剤が使用可能となっている.これらの薬剤はがん免疫に対するバリアを外すことで自己の免疫が腫瘍を攻撃してくれるため,がんが正常細胞と異なるがん抗原を出していることが必要である.一番のがん抗原が遺伝子変異により作り出される変異タンパク質であり,これは喫煙者に多いことが知られている.この免疫チェックポイント阻害剤の出現により進行した肺がんでも治癒する患者が出始めている.進行期肺がん治療も延命ではなく,治癒を目指せる時代に移りつつある.
著者
鈴木 亘 Costantine Chasama Kamata 古山 和道
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.69-79, 2023 (Released:2023-09-01)
参考文献数
28

Erythroid-specific 5-aminolevulinate synthase (ALAS2) is the rate-limiting enzyme of the heme biosynthetic pathway in erythroblasts. ALAS2 is essential for supplying heme to produce hemoglobin in developing erythroblasts. While it has been reported that the gene expression of ALAS2 is regulated at the transcriptional and the translational steps, the post-translational regulation of ALAS2 protein is not well understood. In this study, we examined the protein complex of FLAG-tagged ALAS2 (ALAS2F) using immunoprecipitation followed by mass spectrometry and identified several mitochondrial proteins in the complex of ALAS2F. We also confirmed the presence of these proteins in the complex of ALAS2F by Western blot analysis, and we speculated on the novel role of one of these identified proteins on the post-translational regulation of ALAS2 protein. Further studies on the role of these proteins in the regulation of ALAS2 protein will reveal the precise mechanisms of the post-translational regulation of ALAS2 in erythroid cells.
著者
白倉 正博 亀井 淳 赤坂 真奈美 中軽米 美里 小山 耕太郎
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.183-199, 2019 (Released:2019-12-21)
参考文献数
22

知的に正常な早産極低出生体重児の家庭生活状況と自尊心および親子関係について調査した.対象は2002年4月から2011年3月に当院新生児集中治療室に入院し,就学前の知能検査で正常知能が確認され,2017年4月の時点で学齢期にある108人である.自尊心はPopeの子ども用5領域自尊心尺度で評価し,結果はおおむね良好であった.自尊心評価が完遂できた96人の各尺度を従属変数とし,周産期情報およびアンケート情報の計16項目を独立変数とした重回帰分析を行った結果,出生体重,呼吸窮迫症候群,脳室周囲白質軟化症,調査時年齢と有意な関連を認めた.親子関係も対象の殆どが良好であった.自尊心尺度と親子関係は子からみた母子関係に相関する項目が多く,特に男子の家族尺度が「被拒絶感」と強い負の相関 ‹r = −0.7471, p< 0.001› があった.一方,自尊心と「心理的侵入」,「厳しいしつけ」および「達成要求」は殆ど相関しなかった.
著者
佐藤 洋一 相澤 純 田島 克巳 伊藤 智範
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.75-87, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
28

科学における不正(偽造・捏造,改ざん,盗用)が繰り返し起きている.とりわけ,科学者の就職や昇進時において研究業績が求められるようになってから,不正の事例が表立って報告されるようになってきた.多くの事例を調べてみると,研究不正の動機として,1)知的満足感を得るため,2)周囲から注目されたいため,あるいはいたずら心,3)結論ありきで,ストーリーに沿ったデータを求める上司,あるいは本人,4)営利企業に有利な結果を出すことによる資金獲得という誘惑,があげられる.また,背景として若い時に受けた研究不正に関する不適切な指導と,実験研究の細部まで目を配ることができなくなった研究体制があげられる.査読や同僚評価,あるいは煩雑な不正防止規程は抑止策として十分とは言えない.研究不正は科学の進歩に計り知れない損害を与えるだけに,教育課程の中でしっかりした研究を実体験させる必要がある.
著者
櫻庭 実
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.197-202, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
13

顕微鏡下で血管や神経を縫合する技術であるマイクロサージャリーは,臨床応用されるようになってから60年近くが経過する.高度な技術が要求される難しい手術と考えられがちだが,現代では切断指再接着や遊離組織移植による再建外科などなくてはならない技術の一つとなっている.著者がこれまで経験した再建外科の症例を供覧し,更に最近の進歩についても紹介する.
著者
田島 克巳
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.41-48, 2019 (Released:2019-06-13)
参考文献数
11

医学教育学講座開設後の5年間に臨床実習を中心にカリキュラム改革を行ってきた.2018年には分野別評価を受審し,新しく導入した卒業時コンピテンシーや形成的評価,症例基盤問題解決型学修などは評価をされたが,様々な改善事項も示された.その根本にあるものはアウトカム基盤型教育である.本稿では,これまでの分野別評価に向けた対応,アウトカム基盤型教育の考え方に基づいた今後のカリキュラム改革について述べる.
著者
千葉 智恵美 酒井 大典 坂本 うみ 菊地 彩 奥野 孟 田中 三知子 黒坂 大次郎
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.107-111, 2018 (Released:2018-08-31)
参考文献数
11

非穿孔性眼外傷による水晶体後嚢破裂を伴う白内障は,若年者にまれにみられる外傷性白内障である.我々は2例の12歳の男児の手術を行った.症例1は登校旗のプラスチック棒により左眼を受傷し,症例2は野球ボールで右眼を受傷した.それぞれ受傷後8週,8か月で手術を行った.手術は強角膜切開で行い,術中に硝子体の逸脱はみられず,眼内レンズを嚢内に挿入することができた.水晶体後方に水晶体由来のfish-tailやwhite dotsが見られたが,それらは吸引のみで消失した.後嚢切開や前部硝子体切除は行わなかった.今回の症例では後嚢と前部硝子体をつなぐWieger靭帯で囲まれたBerger腔が水晶体後嚢の役割を果たした可能性が考えられた.術後視力は1.0以上が得られた.