著者
前門戸 任 西條 康夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では研究者がすでに作製しているSLPIプロモーターを用いたアデノウイルス(AdSLPI.E1AdB)の非小細胞肺癌特異的腫瘍の腫瘍選択性についてさらに研究を進め、in vitroだけでなくin vivoにおいてもSLPI分泌非小細胞肺癌で複製されていることをその抗腫瘍効果と同時に観察した。SLPIプロモーターのはたらきをその下流にレポーター遺伝子をつなぎマウスの静脈に投与を行うと、肝臓での発現は僅かにしか認められず、気管内投与でも発現する正常細胞は太い気管支に少数の細胞が認められるのみで当ベクターの安全性が期待できる。次に、非複製アデノウイルスであるAdCMV.NK4(NK4はHGFの分子内断片でありHGFのアンタゴニストとしてのはたらきとHGFに依存しない強力な血管新生阻害作用御もつ)とAdSLPI.E1AdBの併用療法を行った。二つのウイルスが同一SLPI産生腫瘍内に感染したとき、AdSLPI.E1AdBより発現したE1A蛋白がAdCMV.NK4にはたらき、単独では複製しないAdCMV.NK4に複製と発現増強が認められた。また、この併用療法を腫瘍に対し試みると単独療法を凌ぐ効果があり、なおかつ通常の遺伝子治療では効果を発揮することが難しい径が1cmを超える腫瘍に対しても十分な効果を発揮することが出来た。腫瘍組織の分析では、AdCMV.NK4の作用である血管新生阻害の増強が認められた。この二つのウイルスベクターの併用療法は非小細胞肺癌特異的な強力な遺伝子治療として期待できる。
著者
佐藤 輝幸 井上 彰 福原 達朗 榊原 智博 太田 洋充 海老名 雅仁 西條 康夫 貫和 敏博
出版者
The Japan Lung Cancer Society
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.257-261, 2009

<b>背景</b>.上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブは,活性型EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者に対して著明な抗腫瘍効果をもたらすが,後に生じる耐性化への対策は十分に検討されていない.<b>方法</b>.2004年6月∼2007年6月の間に,当施設で活性型EGFR遺伝子変異陽性と診断され,ゲフィチニブ治療が開始された進行非小細胞肺癌患者を対象に,増悪形式に関連した臨床的特徴をレトロスペクティブに解析した.<b>結果</b>.51例にゲフィチニブ治療が行われ,奏効率,病勢制御率は各々71%(36/51),86%(44/51)であった.病勢制御できた44例のうち,2008年4月末時点で33例に増悪を認め(無増悪生存期間中央値14ヶ月),21例は胸郭内,12例は遠隔臓器での増悪(うち10例は脳転移)であった.脳転移増悪例の過半数では放射線治療とともにゲフィチニブが3ヶ月以上継続され,生存期間中央値は28.2ヶ月と極めて良好であった.耐性遺伝子変異T790Mは全て原発巣近傍から検出された.<b>結論</b>.ゲフィチニブ治療例においては異なる増悪形式が認められ,それぞれの機序をふまえた治療法の開発が望まれる.<br>