著者
劉 語霏
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.213-226, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
26

台湾では,出生率の急速な低下により,21世紀に入ってから,少子化問題への世論の関心はますます高まっている.台湾政府も,多くの研究者も,その背景要因の解明と対策に取り組んできたが,少子化の深刻な状況は依然として変わっていない.本稿では,教育制度・政策の側面から,台湾における少子化の進行状況とその背景要因を分析し,教育と少子化が相互に与える影響を明らかにすることによって,少子化対策と課題を検討することを目的とする.分析の結果,台湾の少子化の主な特徴は,女性の高学歴化という要因にあり,それは高等教育の拡大政策と分岐型学校体系に大きく起因していたと言える.台湾の現状をふまえると,政府の少子化対策は,一時的な現金給付策よりも,家庭と仕事の両立ができる職場環境の整備と充実など,長期的に女性の社会進出を支援することに重点的に取り組む必要がある.
著者
香川 めい 劉 語霏
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.5-25, 2016-11-30 (Released:2018-03-26)
参考文献数
33
被引用文献数
1

生徒減少期の高校教育機会の確保には,量的不足への対応が求められた拡大期とは異なる位相の問題が孕まれている。この局面では準義務教育機関となった高校に求められる質的に多様なニーズを満たしつつも規模を縮小させることが必要となるからである。本研究は,同じく生徒数の減少に直面しつつある日本,台湾を事例として取り上げ,高校教育機会を維持し続けること,そこで浮かび上がってくる課題について公私関係を軸に検討する。 日台ともに公立高校の供給不足を私立高校が補完して高校拡大が達成されたため,私立高校はセミ・パブリックな性質を持つようになった。加えて,日本では都道府県に公私協議会を設置して入学定員の按分が行われてきた。それは量的変動のショックを負担し合うことで教育機会の安定的な供給に寄与した。しかし,生徒数が減少し続ける中,定員の按分方式では私立高校の経営が維持できなくなる事態が生じつつある。一方,台湾では2014年の「十二年国民基本教育」実施に伴い,義務教育が実質的に高校まで延長された。この政策は教育機会の平準化や質の均質化を目指すものであるが,少子化の進行,地域間格差などの現実に即したものではない。特に地方で私立職業高校の存続を難しくし,政策の意図とは裏腹に教育機会の平等が担保されない事態が生まれつつある。両社会とも縮小局面で,私立高校の役割をふまえ機会の平等をどう保障していくかが問われている。
著者
劉 語霏
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.123-138, 2021-07-07 (Released:2023-04-08)
参考文献数
25

国際比較が盛んなグローバル社会の中,台湾では,日本教育への研究関心は常に高い。これまでの教育改革では,アメリカを中心とした欧米圏の教育からの影響が高かったが,近年,「学びの共同体」をはじめとする日本の教育からの影響も無視できなくなっている。本稿では,比較教育学の視点から,日台比較教育研究の目的と意義を再吟味し,今後の可能性を明らかにすることを目的とする。分析の結果,比較教育学における方法論の論争の中で,地域的に限定され,文化的な類似性を前提にした「統制された比較法」による日台を含むアジア圏の国々との比較教育研究は,その解決の糸口になれると考えられる。さらに,先住民教育政策という事例分析を通じ,日台比較教育研究から見出せる両国の特徴から,相互の教育改革への一定の示唆を与えることも期待できる。