著者
劉 農 王 勤学 一ノ瀬 俊明 大坪 国順
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, pp.586-600, 2005-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
5 2

人ロセンサスなどの統計資料を用い,中国国内における1990年と2000年の流動人口(戸籍を移さない転居人口)の空間分布,およびその変化を県レベルの精度で調べた.その結果,以下の事実が明らかとなった.流動人口の空間分布は主に都市部に集中し,北京市,天津市,珠江デルタ,長江デルタ,各省の省都が巨大な流動人口の受皿となっている.1990~2000年の10年間に流動人ロの規模と範囲は急激に増加し,1990年には到着地が大都市に集中した点状分布となっていたのが,2000年には大都市を中心とした経済発展の著しい地域に面状に分布するように変化し,沿海,長江沿い,交通要路沿い(たとえば,北京-広州問京広鉄道沿線),国境沿いの四つの増加帯を形成した.省間移動は1990~2000年の10年間に急増し,省内移動を上回るようになった.また,流入の多い約100都市について,経済格差,投資,都市化,雇用,産業構成,交通の便利さを代表する10変数を独立変数として流動人口に対して重回帰分析を行い,移動要因を解析するとともに流入大都市における流動人口を推測する重回帰式を提案した.その結果,2000年においては,都市GDP,1万人当たり旅客運送量,1人当たりGDP,海外からの投資額の4変数で流入現象の83.7%を説明できた。都市GDPが流動人口と最大の偏相関を持ち,移動先の経済力が人々を引き付ける最も重要な要因ということが裏付けられた.さらに,全国県(都市を含む2327箇所)に対して県内GDPと流動人口の回帰分析を行い,中国全県に対する流動人口を推測する式を提案した.