著者
河本 大地
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.373-397, 2006-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
67
被引用文献数
1 1 1

グローバルなフードシステム化が進む現状を踏まえ,途上国における有機農業の展開とそのメカニズムを,スリランカを対象に研究した.その際,特に関連アクターの行動と相互関係に着目して分析した.スリランカの有機農業は,アグリビジネスが先進工業国に有機農産物を輸出することによって実質的な展開をみている.そこには,プランテーション栽培企業と,小農グループを組織する企業という二つのタイプが見出された.他方, NGOも有機農業の推進を行っているが,この場合は輸出よりも農村開発や環境保全に力点を置く.活動の活発なNGOは国際機関などとも密接な関係を持っている.このように,スリランカにおける有機農業の展開は,先進工業国との強い関係性を持ちながら進んでいるが,そこには一方的な従属ではなく,内発性や関係アクター間の連携が一定程度存在することが確認された.
著者
村田 陽平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.13, pp.813-830, 2002-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45
被引用文献数
3 3

本稿の目的は,従来の地理学ではほとんど検討されてこなかったセクシュアリティの視点に注目して,公共空間における男性という性別の意味を解明することである.日本のセクシュアルマイノリティの言説資料を基に,「外見の性」という性別に関わる概念を分析軸として検討する.まず「外見の性」が現代の公共空間といかに関連しているのかを考察する.次に,男性の「外見の性」に意味付けられる女性への抑圧性を検討し,その意味付けを行っている主体は,女性のみならず男性でもあることを示す.そして,公共空間における男性という性別は,「外見の性」が男性である状態を意味することを明らかにする.この知見は,日本における「女性専用空間」の意味を考える上で有意なものである.
著者
牛垣 雄矢
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.527-541, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1 1

本稿は,多様な展開がみられる都心周辺地域の都心化について,建物を単位とした詳細で長期的な土地利用の分析よりその歴史的背景を明らかにした.研究対象とした東京の神楽坂地区は,江戸末期では一部を除き旗本屋敷で,現在もほぼ同じ用途地域と容積率に指定されているが,以前に料亭街であった街区は密集市街地を形成していたために,今日でも建築基準法による規定の影響で街区内の建物は低中層である.また,中層化した建物も以前の狭い敷地を承継した建物が多いため,オフィスや住居のみならず飲食業も多く,かえって飲食店街としての性格をより強めている.一方,料亭街が形成されなかった街区では,大規模な建物が建設される余地が残されていたことに加えて,鉄道路線の結節点となった飯田橋駅にも近いことにより,大規模な中高層建築物が建設されてオフィスやマンションとして利用されるなど,都心的な土地利用を形成している.
著者
武者 忠彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.1-25, 2006-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
3 1

本研究では,松本市中央西土地区画整理事業を事例に,地方都市における中心市街地再開発のメカニズムを制度的環境,都市政治,商店経営者の戦略という三つの視点から分析した.松本市では当初,行政と商店街組織の連携により再開発計画が推進されたが,補助金の削減という財政的要因に加え,個々の商店経営者らの現状維持的な戦略によって再開発は1980年代を通じて停滞した.しかし,大店法緩和を契機に,市長の開発主義的思想に基づく中心市街地への積極投資や行政の大型店対策が都市成長という名目で正当化され,再開発推進体制は再強化された.一方で,商店経営者の戦略は推進体制と必ずしも連動せず,固定資産税の増加などによる商店街からの撤退,テナント賃貸業への転換による商店街への残留,テナントの供給増に対応した新たな経営者の進出など,戦略は多様化した.こうした多様化は,区画整理事業の展開や事業後の商店経営環境の維持にプラスに作用する一方,開発目的を商店街振興から都市成長へとシフトさせ,行政主導の再開発を加速させるという結果をもたらした.
著者
大橋 由美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.7, pp.591-603, 2008-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本稿の目的は, 循環型社会構築に向け注目を浴びている自治体レベルでの家庭系生ごみの堆肥化事業について, 今後, 事業を進めていくために何が重要であるかを明らかにすることである. この点を検討するために, 本稿では, これまで堆肥化事業に着手してきたすべての自治体から得られた終了要因と問題点を基に, 事業の終了と継続に関わる要因を考察した. 事業終了自治体では, 施設の老朽化が顕在化したところで, 取組みをやめる自治体が多く, 終了するか否かの決定には, 堆肥需要とコスト負担の問題が影響を与えていた. 需要を左右するのは堆肥の質であり, ここには分別の徹底や排出される生ごみの組成が日々変化するという家庭系生ごみ特有の問題が関係している. 近年, 多くの自治体が事業を開始しているが, これら自治体が施設の更新時期を迎えた時に, 事業を継続できるかは, 需要のあり方を左右する堆肥の質の問題をいかに克服できるかが重要となる.
著者
伊賀 聖屋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.150-178, 2008-05-01 (Released:2010-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
5 7

近年, 新たな食料供給のあり方としてショートフードサプライチェーン (SFSC) が注目を集めている. その主な特徴は, 主体間の近接性や独自の価格形成・保証方式にある. 本稿では, ローカルな場面で酒造業者A・B社が酒米生産者と結ぶ提携関係をSFSCと位置づけ, その形成過程とそれが個々の主体に及ぼす影響を考察した. その結果, 以下の点が明らかとなった. (1) A・B社と酒米生産者の提携関係は, そこでの「個人間の相互作用」と「密な情報交換」に対する各主体の期待が合致することで生み出された. (2) その形成過程では, 主体の積極的働き掛けのほか, 自然食品のネットワークや生産地域内の近隣関係が各主体の思惑を結びつける機能を果たしていた. (3) 提携が主体に及ぼす影響としては, 信頼関係の醸成, ネットワークの進化, 酒造業者による経済的支援, 市場競争力の強化, 生産調達リスクの増加が挙げられ, これら作用をいかに活用ないし克服するかが提携の存立に向けた鍵といえる.
著者
佐藤 英人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.14, pp.907-925, 2007-12-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
57
被引用文献数
1 5

本研究の目的は, 大規模オフィス開発事業に伴うオフィス移転を, 従来, 住居移動で議論されてきたフィルタリングプロセスを適用して分析し, 新たに供給されるオフィスビルが, 既存市街地内のオフィスビルに対して, 不動産経営上, どのような影響を与えるのかを解明することである. 分析の結果, 横浜みなとみらい21地区には, 横浜市内から転出した企業が多く, 新旧オフィスビル間にはテナント企業の争奪が認められた. 争奪によって空室となった既存市街地内のオフィスビルでは用途転用が確認され, 公共施設や商業施設への転用が認められた. また, 引き続き事務所として利用されたオフィスビルは, 横浜市内への進出を目指す中・小規模企業の受け皿となっている. したがって, 大規模オフィス開発事業に伴うオフィス移転は, テナント企業の連鎖移動を誘発させ, 結果的には, 既存市街地のオフィスビルに入居するテナント企業の選別格下げが起る.
著者
山本 健太
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.442-458, 2007-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17
被引用文献数
8 5 3

東京におけるアニメーション産業の集積メカニズムを企業間取引と労働市場の実態分析により検討した. その結果, 企業間取引の特徴として, 業界内の受外注は短納期であり, 契約内容が明文化されないことが明らかになった. アニメーション制作企業は取引先企業の技術力と支払いに対する信頼を通して取引の柔軟性を得ている. そのため, 企業相互の関係構築が重要になっている. 一方, 労働市場の主な特徴はフリーランサーが業界の主要な労働力になっていることである. フリーランサーは不安定な就業状態におかれているが, 仕事を通じた縦の人的つながりによって技術を修得し, 仕事仲間の横のつながりによって仕事を得ている. したがって, アニメーション産業の東京集積は, (1) 相互間の知識と信頼に立脚した取引が可能となる同業他社との近接性, (2) 柔軟性に富んだ専門的な労働者の確保と再生産が可能な労働市場, (3) スポンサーとなる関連コンテンツ産業の集積, (4) 新規労働者を供給する専門学校などの相互連関により維持されていると理解できる.
著者
石川 菜央
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.14, pp.957-976, 2004-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
84
被引用文献数
8 3

宇和島地方において闘牛が存続してきた要因を,担い手の生活や行動に注目して分析した結果,以下の3点が明らかになった.第1に,生業における牛の必要性が農民の娯楽としての闘牛を生み出した.ゆえに農業が機械化されると闘牛は消滅した.しかし第2の要因である観光化と担い手の組織化が,これを復活させた.宇和島市・南宇和郡の各組織が観光化と地域の状況に対応しながら大会を維持してきたことは,現在の共存関係につながっているといえる.組織を支える第3の要因として,担い手の中心である牛主や勢子,それを支えるヒイキなどが組織内で育まれていることが最も重要である.彼らは勝負の時だけではなく,牛の世話や飲食など日常生活を通して交流し,確固たる人間関係を築いており,そこから次の担い手が再生産されている.闘牛は伝統行事であると同時に,現在においても担い手の生活の核となり,新たな人間関係を生み出しているのである.
著者
伊賀 聖屋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.361-381, 2007-05-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
31
被引用文献数
7 5

本稿は, 地場の味噌製造業者A・B社が使用する良質な原料農産物に着目し, その質の構築過程を「概念化」・「物質化」・「維持」の観点から考察した. 結果, 以下の点が明らかとなった. (1) A・B社原料の質は, 主に各社が食の安全に敏感な人々との交渉の中で, 原料の具体的生産・調達条件を規定することにより概念化された. (2) 概念化された質の物質化に向け, 各社はそれへの同意を得やすい農家に対し積極的アプローチを行った. その際に形成された各社ネットワークは, 原料の規定条件により異なる空間的発展様式を見せた. (3) 各社原料の質は, 各社が原料生産者に対し質の妥当性を再検討する場や原料生産の技術的支援体制を整備する一方, 消費者に対し原料生産に関わる情報を的確に伝達することで維持される. (4) 上の過程において各社は, 地元外の原料生産者や消費者とも戦略的に結びつきを強めたが, 接触手段・頻度の向上を図ることでその地理的関係を調整していた.
著者
阿部 康久 高木 彰彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.228-242, 2005-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

衆議院への新選挙制度の導入によって,個人後援会に代表される国会議員の政治組織が,空間的にどのような変容を遂げつつあるのかを長崎県を事例として検討した.並立制導入以降も,議員の多くは,新選挙区から外れた地区においても政治活動を行い,中選挙区時代の後援会組織を,基本的には維持している.その要因として,選挙区外の支持者であっても,選挙の際には支援を受けられるという点があるが,中選挙区時代の区割りが,現在でも議員や後援者の意識に,強い影響力を有しているという側面も指摘できる.これに対して,現在の選挙区が,交通アクセスが悪い諸地域から成り立っているところでは,中選挙区時代の後援会組織を維持することに消極的である.また,衆院から参院議員や知事に鞍替えした議員は,広大な選挙区をカバーする後援会組織を作ることが難しく,その空間的範囲は,衆院時代のものに限定されている.党派別に見ると,与党系の議員は,自前の後援会組織だけでなく,党所属の地方議員や支持団体からも支援を受けられるのに対して,保守系野党議員は,このような支援を受けにくく,従来の後援会組織に集票活動を依存する傾向が強くなっている.
著者
清水 克志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.1-24, 2008-01-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
54
被引用文献数
2 2

本稿はキャベツ (甘藍) を事例に, 日本における外来野菜の生産地域が明治後期から昭和戦前期にかけて成立する過程を, 食習慣の定着と関わらせて考察することを目的とした. 明治前期に導入されたキャベツは, すぐには普及しなかった. 明治中・後期に, 都市の知識人がキャベツの新たな調理法を考案し, 大正期以降, その調理法が婦人雑誌や新聞で紹介された. また軍隊や学校給食などでキャベツがいち早く利用され, 都市住民の間でキャベツ食習慣の定着がみられた. 一方, 岩手県盛岡市などの各地の民間育種家は, 個々の地域の自然条件に適した作型であることに加え, 都市住民の嗜好に合致する国産品種を育成し, 生産地域の成立を促した. その結果, 長距離輸送が可能なキャベツは, 収穫期の異なる複数の生産地域から, 都市へ周年的に供給されるようになった. このことは, 外来野菜の生産地域の成立が, 食習慣の定着と密接に結びついて展開したことを示している.
著者
須山 聡
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.13, pp.957-978, 2003-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
52
被引用文献数
1 1

本稿は富山県井波町の瑞泉寺門前町の景観を分析し,井波彫刻業が景観形成に果たしな役割を明らかにする.彫刻業者は,1970年代半ば以降門前町に進出し,近世末から近代にかけての商家建築を借り,作業風景や作品が外部から見える工房を意図的に作った.伝統的な彫刻と伝統的な建築物との組合せを,歴史的背景を知らない観光客は,「伝統」的景観と理解するが,両者は歴史的に関連を持たない.ゴッフマンの劇場理論を用いた分析から,門前町には観光と工業の二つの舞台が併存することが明らかになった.前者は「伝統」を,後者は生産をテーマとし,いずれにおいても彫刻業者が主役を演ずる.「伝統」テーマを期待した観光客は,彫刻業者が生産をテーマとしていることを理解しようとせず,彫刻業をアトラクションとして楽しむ.行政・地域社会は,彫刻業を利用した街路の修景などで,舞台を「伝統」テーマに沿って演出した.彫刻業者は工業の舞台にあり続けながら,行政・地域社会が演出した観光地の景観を経営資源として利用している.門前町の景観は,異なる景観形成主体によって演出された舞台の二重構造によって形成された.
著者
成瀬 厚
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.172-175, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1
著者
成宮 博之 中山 大地 松山 洋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.14, pp.857-868, 2006-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
47
被引用文献数
3 3 1

本研究では,東京都内にある30地点の湧水における過去20年間の水温の変化について調べた。また2005~2006年の渇水期と豊水期に現地で水温,pH,電気伝導度を測定し,実験室でSiO2濃度を測定したSiO2濃度は,湧水の背後にある洒養域の広さの推定に用いた.これらと,東京都が過去に実施した調査結果とを合わせることで,1987~2006年の湧水温に関する観測値が得られた.水温の観測値を地点,時期ごとに分類し,外れ値の影響を考慮して変化傾向を求めることができるKendall検定を適用したところ,解析対象とした23地点のうち,渇水期13地点,豊水期11地点において,有意水準5%で有意な水温の上昇傾向がみられた.湧水のSiO2濃度と,渇水期と豊水期の水温差との問には有意水準5%で有意な負の相関関係がみられた。このことから,湧水のSiO2濃度が高い場合,その湧水は相対的に滞留時間が長く,また比較的広い洒養域からなるものと考えられる.そして熱容量が大きいことから気温や環境の変化に対して水温の変化が顕著に表れない可能性が示唆される.
著者
大平 晃久
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.121-138, 2002-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
91
被引用文献数
3 2

場所の社会的構築において言語は中心的な役割を担い,地名もその一部として位置付けられる.しかし,固有名論を適用した地名の検討は個人名に比べ従来ほとんど行われていない.本研究では地名の名付け・使用の検討から,地名は場所を直接指示するという常識的な理解は誤りであり,地名も一般名同様にカテゴリーとして機能していることを示す.すなわち,個体化と類似性の設定に基づくカテゴリー化の能力によって,複数の範域が同一視され,また,無数の時間的・空間的切片の差異が捨象され,地名・場所は成立している.その上に,階層構造としての下位の地名の上位地名によるカテゴリー化,範域内の全事物・事件の地名によるカテゴリー化が加わることで,現実の豊かな地理的知識が構成されているのである.このように能動的・動態的なカテゴリー化として地名を理解することは,認知言語学や認知地図研究との接合によって,大きな発展の可能性を持っていると考えられる.
著者
上西 勝也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.660-670, 2008-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

江戸末期に幕府と各国間で締結された修好通商条約には外国人の行動範囲を原則40kmに規制した項目があり「外国人遊歩規程」といわれている. 横浜居留地の場合, 西端の制限地点は酒匂川としていたが明治初期に外交団側からの要請により正確な測量に基づき再設定すべく当時の内務省による実測量が施行された. その結果, 当初規制した範囲が妥当であったことが判明し見直しは不要となった. この実測量の成果と現地に残存する測量標石を発掘調査することにより実測量が当時, 東京からはじまり西へ延伸した三角測量の一段階であるとともに日本の測量技術向上に寄与したことを確認した.
著者
井上 学
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.435-447, 2006-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
3 5 1

本研究は,規制緩和後の乗合バス市場がコンテスタブルな市場として適当であるかどうか,京都市を事例に新規事業者と公営バス事業者との競争を通じて明らかにする.新規事業者の参入に対して,京都市営バスは既存のネットワークを活用する戦略をとった.具体的には,定期券制度の改善によって運賃面における優位性を打ち出した.また,市内中心部に参入しようとしたエムケイの行動に不安を持った京都市や商工会議所は,京都市営バスとエムケイとの協調を促した.エムケイが京都市営バスの路線の一部を受託することで,エムケイは新規参入をとどまった.エムケイのバス車両は京都市営バスが買い取ったためサンク.コストは最小限に抑えられた.この点において京都市のバス市場はコンテスタブルな市場といえる.今後,京都市営バスがさらなるサービスの再編によって最適な運賃が達成されることで,コンテスタビリティ理論に合致した状況になると思われる.

10 0 0 0 OA GIS革命と地理学

著者
碓井 照子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.687-702, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
58
被引用文献数
1

本稿は,GIS革命が地理学にいかなる影響を与えたか,その本質的な問題点を整理するとともに展望する点にある.1990年代初頭に英米においてGISはツールか科学かという論争が行われ地理情報システムから地理情報科学への転換がみられた.この背景には,IT革命とGIS産業の発展がある.本稿では,この1990年代初頭のGISにおける質的な変革をGIS革命ととらえ,GIS革命が地理学にいかなる本質的な問題を提起したのかを(1)国土空間データ基盤と地理学,(2)電子地図の本質的変化と地理学方法論,(3)地理情報の標準化とオブジェクト指向の三つのテーマから明確にした.オブジェクト指向の考え方をベースにした地理情報標準では,地理空間を地物で構成された空間とみなし,UMLでモデル化を行う.この地理空間のモデル化の根底には,I. Kantにさかのぼれる空間の認識論や地誌学にみられる素朴科学としての地理学的方法論が底流として流れている.
著者
高野 誠二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.661-687, 2005-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
54
被引用文献数
3 2

本稿では,日本の都市中心部における特徴である,古くからの街道沿いに発達した旧中心商店街と,鉄道開業後に発達した駅周辺地区との商業の競合関係に着目しつつ,各種の都市整備事業を通じた旧中心商店街の活性化をめぐる,都市内の政治権力構造を考察した.八王子市において大きな政治力を発揮してきたのは,歴史の古い旧中心商店街である甲州街道沿いの地区を地盤とする,「旦那衆」と呼ばれる実力者達である.彼らは商工会議所や商店会連合会等の中枢を占めたり,政治家や市の幹部等との豊富な人脈を駆使したりして,旧中心商店街の開発が優先的に行われるように積極的に活動した.また,自地区以外での事業には消極的な態度をとり,旧中心商店街の活性化を重視する政策の形成に大きく寄与してきた,しかし,大型店が駅周辺地区や郊外を志向するようになる中で,旧中心商店街の商業は衰退を続け,そこでの都市開発事業の多くは採算の目途が立たずに実現できなかった.また,旧中心商店街以外の地区や,旦那衆以外の商業者の反対意見により,八王子市における旧中心商店街優先政策は再検討を迫られつつある.