著者
徳野 治 藤原 美樹 中上 佳美 山之内 すみか 足立 昌代 池田 明子 北山 茂生 高橋 敏夫 加瀬 哲男 木下 承晧 熊谷 俊一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.525-533, 2009-09-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
15
被引用文献数
2 4

インフルエンザ迅速診断キットは,その初期診断と治療に有用であり多種市販されている.しかし検査結果の精度に関しては,各キット間の検出感度差も示唆される.今回8 社から販売されているキットの特性を明らかにすることを目的として,ワクチン株及び臨床分離株を用いて検出感度や性能等を比較検討した.供試したウイルス株は分離培養したA 型H1N1,A 型H3N2,B 型のワクチン株5 株,臨床株6 株を用いた.各ウイルス株原液を生理食塩水で10 倍段階希釈し,キット添付文書記載の用法に基づき測定を行い,陽性検出限界を求めた.これをさらに2 倍希釈系に調製して測定し,最小検出感度を比較した.各試料中のウイルスRNA コピー数をリアルタイムreverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR)法にて測定した.同時に各キット添付の専用綿球と専用容器でのウイルス抽出効率の評価も実施した.各分離株に対する最小検出感度のウイルス抗原量平均値〔log10 コピー数/mL〕は,A 型H1N1 が5.68~7.02,A 型H3N2 が6.37~7.17,B 型が6.5~8.13 であり,一部のキット間で感度に有意差が認められ,ウイルス抽出効率についてもキット間に差が認められた.ウイルス検出感度はA 型に対して比較的高く,B 型には低い傾向が認められた.各キット間の検出感度差については,用いられている検出原理の違いや,あるいはそれぞれのウイルス抽出方法の違いによるものと推察される.
著者
奥野 良信 伊藤 正恵 加瀬 哲男 中川 直子 前田 章子
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

インフルエンザウイルスのHA蛋白は構造的に頭部と幹部に分かれるが、我々は以前に幹部に共通中和エピトープの存在することを証明した。このエピトープを利用するために、幹部だけをコードするヘッドレスHAのcDNAを構築し、これを広域反応性のDNAワクチンとして活用することを考えた。昨年度までは、HA遺伝子を発現させるベクターにpEF-BOSを用いていたが、マウスに有効な免疫を賦与できなかった。そこで今年度は、高発現ベクターのpNOW-GKTに変更してDNAワクチンを作製し、マウスに免疫して抗体価の測定とチャレンジテストによりこのワクチンの有効性を検討した。フルサイズのHA、あるいはヘッドレスHAをコードするcDNAをベクターに挿入し、遺伝子銃を用いて3週間隔で2回マウスに免疫した。2回目の免疫から2週後にマウス肺に強い親和性を示すA/FM/1/47(H1N1)をマウスの鼻腔内に接種してチャレンジテストを行った。ベクターだけを接種したマウスは著明に体重減少し、半数のマウスが死亡した。一方、フルサイズのHAを免疫したマウスはすべて体重減少を示すことなく生存した。ヘッドレスHAを免疫したマウスの20%は死亡したが、生存したマウスは体重減少を起こさなかった。経時的にマウスより採血し、血清抗体価をELISAと中和試験で調べた。フルサイズのHAを免疫したマウスは有意な抗体上昇を示したが、ヘッドレスHAを免疫したマウスは抗体価の上昇を認めなかった。以上の結果より、ヘッドレスHAを免疫したマウスがコントロールのマウスよりも生存率が高かったのは、液性抗体よりも細胞性免疫が働いているためだと推測された。今後は、ヘッドレスHAの免疫方法を変え、抗体価の測定だけでなく細胞性免疫も調べてヘッドレスHAのDNAワクチンとしての有用性を検討したい。