著者
枝川 亜希子
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

大阪府内の水道原水として取水を行っている河川水から、平成17年度に分離・同定したNaegleria spp.、Acanthamoeba spp.について、PCR産物のdirect sequencingを行い、遺伝子解析を行った。分離したNaegleria属180株の遺伝子型解析を行った結果、動物に対し実験的にアメーバ性髄膜脳炎を引き起こすとされるN.australiensis、N.philippinensisなどを含むNaegleria属13種を検出した。分離したAcanthamoeba属74株について遺伝子解析を行った結果、A.castellaniiなど7種を検出した。その系統樹解析を行ったところ、アメーバ角膜潰瘍の原因となるA.castellaniiが属するType4遺伝子群に4株が属していた。さらに、水道水を対象に自由生活性アメーバの分離・同定を行った。建築物内で日常的に使用している蛇口栓(水道水質基準を満たしていることを確認している)から2試料、使用頻度の低い蛇口栓から28試料を採取した。分離・同定は、平成18年度と同様の方法で行った。採取した30試料のうち、20試料(66.7%)から自由生活性アメーバを検出し、Naegleria spp.22株、Vannella spp.2株、その他15株を同定した。日常的に使用している蛇口栓から採取した水道水からは自由生活性アメーバは検出されなかった。Naegleria属については遺伝子型解析を行っている。本研究により、水道原水中に病原性の高い種を含め多種類の自由生活性アメーバが棲息することが明らかとなった。水道水については、使用頻度の低い蛇口栓から採取した試料から自由生活性アメーバが高率に検出され、滞留が原因と考えられる自由生活性アメーバ汚染が示唆された。
著者
大山 正幸 竹中 規訓 中島 孝江
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

毎年5名の喘息症状有症者を対象に、9月から約3カ月間、週毎の室内の亜硝酸(HONO)や二酸化窒素(NO_2)やオゾン(O_3)の濃度を測定し、毎日の喘息発作や呼吸器症状を調べた。その結果、U検定ではNO_2と喘息発作との関連に有意差は無かったが、HONOと喘息発作との関連に有意差が認められた(P=0.0013)。また、測定局データを利用した多変量解析後でも、HONOと喘息発作との関連に有意差が認められた。今回の結果は、NO_2よりHONOの方が喘息発作との関連が強いことを示唆する。
著者
左近 直美 上林 大起 中田 恵子 駒野 淳 中村 昇太
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ノロウイルスの長期にわたるシステマティックな疫学研究により、ノロウイルスに対する免疫は集団レベル、個体レベルともに遺伝子型特異的であり、その持続期間は2~3年であることを示した。また、繰返される感染によって免疫は増強されることが推察された。多様な遺伝子型の存在下で、年齢や感染歴を背景にダイナミックにヒトの中で流行している。これらはノロウイルスワクチンの基礎的知見となる。
著者
森 治代 小島 洋子 川畑 拓也
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大阪府内で流行が拡大し、分子疫学的に大きなクラスターを形成するHIV-1 株に着目し、それらを特異的に増幅するPCR プライマーを用いることによりHIV-1 のsuperinfection(初感染とは異なるHIV-1 株に再感染すること)もしくは重複感染を簡便に検出する方法を開発した。3 種類の特異プライマーを作製し、HIV-1 感染者63 名から得られたプロウイルスDNA について検討した結果、2 症例においてサブタイプB 株の重複感染が認められた。
著者
高取 聡 起橋 雅浩 北川 陽子 福井 直樹 岡本 葉
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

多岐にわたる加工食品を高脂質食品、低脂質食品、準農産物、ノンアルコール飲料及びアルコール飲料に分類して、これらに適用できる迅速かつ簡便な残留農薬一斉分析法を構築した。当該分析法を活用して市場に流通する加工食品中の残留農薬を分析した結果、食品衛生法の基準を超過する農薬を含む加工食品を検知し、販売者に自主回収を促した。また、消費者からの要請に基づいて風味異常を呈した食品から原因と推察される農薬を検出し、当該分析法の実用性を証明した。
著者
尾花 裕孝 古田 雅一
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

食品の放射線照射は、食品の微生物管理や品質保持に効果がある。本研究では、照射時のラジカル反応により脂肪成分が変性して照射特異的に生成する2-アルキルシクロブタノン類(シクロブタノン)を検知指標とする食品照射履歴を化学分析により検知する分析法開発を第一目的とした。加熱溶媒による効率の高い抽出、低温下の脱脂、固相カラム精製を組み合わせた前処理法により、EU公定法ではGC/MS測定までの前処理操作に約2日を要するが、それを7、8時間に短縮することができた。牛肉、豚肉、鶏肉、鮭などにγ線を照射し開発した分析法によりシクロブタノンを分析したところ、すべての試料で、照射線量とシクロブタノン生成の用量一反応関係を確認した。シクロブタノン生成量は試料の脂肪含有量が影響したが、脂肪の多い試料で0.5kGy、少ない試料でも1kGy程度の線量まで検出できる感度であった。加熱加工・調理の影響を検討するために、照射食肉を加工・加熱調理してシクロブタノン分析を行った。その結果一般的な加熱・加工では食品の内部温度は100℃以下でありシクロブタノンは安定であったが、加熱温度を200℃に上げるとシクロブタノンは消失した。従って加熱加工・調理後の照射食肉類の照射履歴も検知可能であることが判った。食肉類の照射は冷凍状態で行われることが多いが、低温時のシクロブタノン生成は室温に比べると少ないことが明らかになり、低温時には元の脂肪酸構成を反映しにくいシクロブタノン生成比率であった。1年の冷凍保存を目安に冷凍保存後も照射の検知ができるかを検討したところ、生肉類ではシクロブタノンは若干減少したが照射検知には支障はなかった。加工食品では生肉類よりも大きく減少する例もあった。また、室温保存と比較すると、冷凍保存の方がシクロブタノンの安定性は高かった。
著者
中川 直子 奥野 良信 森川 佐依子 伊藤 正恵
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.AH9型およびAH5型インフルエンザウイルスの早期診断AH9型のインフルエンザウイルスは香港でヒトヘの感染例が報告されており、次の新型ウイルスの最有力候補といわれている。AH9型の流行に備えて、A/Duck/HongKong/702/79(H9N5)対するモノクローナル抗体を作製した。既にAH5型のインフルエンザウイルスに対するモノクローナル抗体を樹立しているので、これらの抗体をPAP法に応用することにより新型ウイルスの迅速診断を行いたい。2.新しいタイプのB型インフルエンザウイルス(山形タイプ)の早期発見従来のB型に中和活性を示すモノクローナル抗体5H4を用いて抗原性を調べたところ、大阪府で採取された1998/1999シーズンの株の6%にあたる株は5H4で中和されない新しい抗原性を有した株であった。HA1領域のDNAシークエンス解析の結果、149番目のアミノ酸がアルギニンよりリジンに変化していることが、原因であると示唆された。149番目のアミノ酸がアルギニンであることは、山形タイプに特徴的で、10年来変異がなく、この知見は特筆すべきものであると考えられる。1999/2000シーズンはB型の流行がなく2株のみ採取されたが、この2株とも新しい抗原性の株であった。新しい変異が見られたことで、2000/2001のB型の流行が以前より大きくなることを予想していたが、懸念通り、ワクチン株と抗原性の差異がみられるウイルス株が流行し、その流行が長引いた。今後はワクチン株の選定に貢献したい。3.AH1型インフルエンザウイルスの早期診断1999/2000シーズンには4年ぶりにAH1(Aソ連)型の流行があり、流行株に対するモノクローナル抗体を作製した。次の流行時には、これらの抗体をPAP法に応用することにより、迅速診断ができるだけでなく、今回の流行株との抗原変異の解析が可能となる。
著者
奥野 良信 伊藤 正恵 加瀬 哲男 中川 直子 前田 章子
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

インフルエンザウイルスのHA蛋白は構造的に頭部と幹部に分かれるが、我々は以前に幹部に共通中和エピトープの存在することを証明した。このエピトープを利用するために、幹部だけをコードするヘッドレスHAのcDNAを構築し、これを広域反応性のDNAワクチンとして活用することを考えた。昨年度までは、HA遺伝子を発現させるベクターにpEF-BOSを用いていたが、マウスに有効な免疫を賦与できなかった。そこで今年度は、高発現ベクターのpNOW-GKTに変更してDNAワクチンを作製し、マウスに免疫して抗体価の測定とチャレンジテストによりこのワクチンの有効性を検討した。フルサイズのHA、あるいはヘッドレスHAをコードするcDNAをベクターに挿入し、遺伝子銃を用いて3週間隔で2回マウスに免疫した。2回目の免疫から2週後にマウス肺に強い親和性を示すA/FM/1/47(H1N1)をマウスの鼻腔内に接種してチャレンジテストを行った。ベクターだけを接種したマウスは著明に体重減少し、半数のマウスが死亡した。一方、フルサイズのHAを免疫したマウスはすべて体重減少を示すことなく生存した。ヘッドレスHAを免疫したマウスの20%は死亡したが、生存したマウスは体重減少を起こさなかった。経時的にマウスより採血し、血清抗体価をELISAと中和試験で調べた。フルサイズのHAを免疫したマウスは有意な抗体上昇を示したが、ヘッドレスHAを免疫したマウスは抗体価の上昇を認めなかった。以上の結果より、ヘッドレスHAを免疫したマウスがコントロールのマウスよりも生存率が高かったのは、液性抗体よりも細胞性免疫が働いているためだと推測された。今後は、ヘッドレスHAの免疫方法を変え、抗体価の測定だけでなく細胞性免疫も調べてヘッドレスHAのDNAワクチンとしての有用性を検討したい。