著者
加茂 陽 大下 由美
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.12-22, 2001-08-31

この論文の目標は,ホワイトとその同僚たちの,フーコーの「権力/知識」理論に依拠した,ナラテイブ・モデルと呼ばれているエンパワーメント理論を批判的に分析し,その過程のなかから導き出される新しい社会構成主義的エンパワーメント論の概略を描き出すことである。フーコーの「権力/知識」が彼らの理論体系のなかに導入される際の問題点がまず指摘される。それらのなかで,特に,言説あるいはそのストーリー還元論的な現実の説明手法について吟味を深め,この還元主義的手法への対抗的な現実分析の枠組みとして,重層構造的意味のレベル群の相互調整過程を強調するCMM理論を提示し,その有効性を明らかにする。さらに,理論の最も基礎的なレベルに「力としての差異」概念を設定し,差異の拡大が意味のレベル群に波及するメカニズムを説明する理論体系をエンパワーメント論として論じ,具体事例を用いて,その有効性を明らかにする。