著者
湯川 恭敏 BESHA Ruth M 加賀谷 良平
出版者
東京外国語大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1988

今年度は、前年度の現地調査によって得られた以下のタンザニア諸言語(部族語)のデータについて、できる限り多くのものの整理と分析を目標とした。チャガ語マチャメ方言、同ヴンジョ方言、同キボソ方言、パレ語、ズィグア語、ザラモ語、ゴゴ語、ベナ語、マトゥンビ語、マコンデ語、マンダ語、ニャキュサ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ニャムウェズィ語、ハヤ語、サンダウェ語また、タンザニアからの参加者ルス・Mベシャは、シャンバラ語(サンバー語)についての研究を整理した。その結果、以下の諸言語に関してかなりの水準の分析ができた。チャガ語マチャメ方言、パレ語、ザラモ語、ゴゴ語、マコンデ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ハヤ語それらの分析結果の多くは、科学研究費補助金による出版『Studies in Tanzanian Languages』に、ベシャの論文とともに収録されている。バントゥ諸語のように互いに似通った文法構造を有し、かつ、欧米諸国の研究者によってある程度の研究がなされている言語については、個別言語の文法等についての初歩的事実を記述するのでは(仮にその言語についての研究としては初めてであったとしても)言語学的意味がほとんどないので、我々は各言語について、その全体的な音韻・文法構造を把握すると同時に、従来バントゥ諸語研究全体としてみて不十分であった分野のつっこんだ分析をめざした。その分野とは、主にアクセントの領域であり、日本語とよく似た高低アクセントを有するバントゥ諸語のアクセントの解明は、その言語そのものの研究にとって重要なものであるとともに、一般言語学的にも極めて重要なものである。その中でも、動詞のアクセントは、バントゥ諸語の動司の文法的複雑さ(動詞語幹にさまざまな接辞がくっついて数多くの活用形ができあがるという特徴)のために、その解明に特別の努力を要するものであり、また、それを解明するには、その言語の動詞にいかなる活用形が存在するのかを前もって知っている必要がある。すなわち、その言語の文法に関する総合的知識を必要とするため、各言語の全体的な構造の紹介と言語学的に高度な分析とを統一的に遂行するには恰好の領域といえる。我々の努力がこの線に沿ってなされたのは、こうした理由による。なお、タンザニアのバントゥ諸語には、チャガ語やスクマ語のようにかなり複雑なアクセント体系を有する言語がある一方、ザラモ語のようにアクセント対立がなくなっているもの、あるいはかなり簡単化しているものも相当ある。そのような言語についても、動詞組織の解明に意味がないわけではないので、そうした論文も発表した。また、ベシャの研究は、シャンバラ語の話し手としての言語感覚を生かした研究を行ってほしいという我々の要望に応えたものとなっている。こうした面での努力と同時に、我々は、二つの言語を選んで、その語彙集を同じく科学研究費補助金によって編纂し出版した(ニランバ語、パレ語)。これらは、従来この種の辞書類にはあまり見られないアクセント表記を付したものであるとともに、タンザニアの国語であるスワヒリ語の単語をも(今後のスワヒリ語と部族語との比較・対照研究の便宜をはかるために)つけ加えたものである。以上の研究は、タンザニア124部族のうちの約1割の言語を扱ったにすぎないという点では初歩的といわざるをえないし、今後の一層の研究(既存データの分析と新たな調査)を必要とするけれども、少数の研究者による短期の調査によるものとしては質量ともにおそらく世界的にも他に類を見ないものであり、これによって、タンザニアのバントゥ諸語の研究の発展に重要な寄与をなしたといえるのみならず、広くはバントゥ諸語の記述・比較研究にも一定の寄与をなしえたといえよう。バントゥ諸語比較研究との関連でいえば、そうした研究のレベルは個別言語の記述がどこまで正確であるかによって規定されるものであり、個別言語の言語学的分析を中心とした我々の今回の研究は、その小さな部分にすぎないけれども、それなりに極めて重要な意義を将来にわたって持ち続けることになろう。
著者
加賀谷 良平 宮本 律子 梶 茂樹 湯川 恭敏
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究期間の平成11年度〜13年度で、タンザニア、ケニア、ウガンダのバントゥ諸語の内、ほぼ30言語を調査した。この言語数は予定数をやや上回っている。具体的な調査内容について言えば、各言語において,ほぼ2000語におよぶ語彙,音声,音韻,文法等の全般的かつ精密な調査と分析を行った。この3年間の調査自体はほぼ満足すべきものであり,バントゥ諸語の音調研究を中心とした研究から新たな一般言語学的知見が得られ、また、言語変容、消滅の危機に瀕した諸言語の記述研究をとおして、我々の調査隊の成果は世界的に貢献できたと考える。しかし、未だに消滅の危機に瀕しているバントゥ諸語は多数存在し,現在を除いてはその記述・記録が不可能となること,また急激な社会変化により、多くの言語が歴史上かつて見られなかったほどの早さで変化していることなどを考えると,アフリカ諸言語の調査分析から得られる成果は極めて大であり,引き続き精力的かつこれまで増した大規模な調査が必要である。現在のアフリカはいわば壮大な言語実験場であり,幾つかの言語の定点観測を行いつつ,経験の深い優秀な調査者がより精力的に調査を行う必要があると痛感する。この3年間の調査成果は,言語学会,アフリカ学会や多くの学会誌等を通じて発表してきたが、今後も多くの成果発表を予定している。また別途の論文集として出版する予定である。なお、この調査隊には、R.Besha(ダルエスサラーム大学教授)、K.Kahigi(ダルエスサラーム大学教授)、小森淳子(大阪外国語大学非常勤講師)、神谷俊郎(東京外国語大学博士後期過程)、阿部優子(東京外国語大学博士後期過程)が研究協力者として参加・協力した。