著者
賀来 文治 井ノ口 安紀 北川 直孝 勝田 省嗣 池田 真浩
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.890-899, 2018-08-15 (Released:2019-08-23)
参考文献数
17

経胸壁心臓超音波検査にて,左心耳内血栓が確認できた心房細動6症例を検討.症例①48歳男性,血栓サイズ:30×18 mm,症例②68歳女性,血栓サイズ:23×17 mm,症例③80歳男性,血栓サイズ:20×15 mm,症例④69歳女性,血栓サイズ:12×10 mm,症例⑤68歳男性,血栓サイズ:15×11 mm,症例⑥53歳男性,血栓サイズ:12×11 mm.心房細動の発症時期は全例で不明であり,動悸等の心房細動に関連した自覚症状も全例で認めなかった.5例は心不全の増悪による呼吸困難を主訴に医療機関を受診.全例で左房は拡大し,5例で左室収縮能の低下を認めた.CHADS2 Score,CHA2DS2-VASc Scoreに関しては1点から5点とバラツキがあったが,CHADS2 Scoreに関連した危険因子のうち,心不全のみを有し,他の危険因子は存在しないCHADS2 Score 1点の症例が6例中4例と半数以上を占めた.さらに感染症の合併,抗癌剤の内服,肥大型心筋症などのCHADS2 Score以外の血栓形成に関連した危険因子の併発を4例に認めた.来院時に有効な抗凝固療法が実施されていた症例はいなかった.1例は来院時にすでに上肢の塞栓症を発症していた.残る症例においても,抗凝固療法を開始したものの,1例で両側の腎梗塞,2例で心原性脳塞栓症を発症した.また,可動性がある血栓を認めた1例では,入院8時間後に心原性塞栓症を発症した. 経胸壁心臓超音波検査で判別可能な比較的大きな左心耳内血栓をすでに認める心房細動症例の対処法は難しい.抗凝固療法を開始しても,不幸な転帰に陥る症例も少なくない.事の重大性を考えると,侵襲度は大きいものの患者の全身状態が許せば,必要に応じて外科的な血栓摘除術も考慮する必要がある.
著者
賀来 文治 油尾 亨 藤田 主税 吉田 太治 下島 正也 勝田 省嗣 田口 富雄 新田 裕 平岩 善雄
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.1145-1152, 2013-09-15 (Released:2014-09-17)
参考文献数
18

症例は92歳の女性.86歳時に他院にて洞不全症候群および発作性心房細動の診断でAAIペースメーカーの植え込みがなされ,植え込み後も発作性心房細動に対して抗不整脈薬(ピルジカイニド75mg/日,ベラパミル120mg/日,メチルジゴキシン0.05mg/日)の投与が継続されていた.ペースメーカー植え込み後,毎年施行されていたペースメーカーチェックでは,心房のペーシング閾値は0.5V(パルス幅0.4msec)で,ペースメーカーの出力は2.5Vに設定されていた.以後,施設に入所中であったが,意識低下,低酸素血症,徐脈,ショック状態にて当院救急外来へ緊急搬送された.搬送時の心電図では心房のペーシング不全と高度の徐脈を認めた.まず,ペースメーカーの出力を10V(パルス幅1.0msec)にしたが心房は捕捉されなかった.次に体外式ペースメーカーを挿入し,右房の数か所で10V(パルス幅0.75msec)の出力でペーシングを試みたが,やはり心房は捕捉されなかった.引き続き右室でのペーシングを行ったところ,心室は容易に捕捉可能であり心室のペーシング閾値は1.0V(パルス幅0.75msec)であった.その後ピルジカイニドの血中濃度が2.3μg/mLと中毒域にあったことが判明した.抗不整脈薬の中止とともにペーシング不全は改善,全身状態も改善し救命可能となった.本例では血中ピルジカイニド濃度の上昇がペーシング不全の主因であった可能性が高いが,心房と心室のペーシング閾値に大きな差を認めた.日常臨床の場では,ペースメーカー植え込み後に抗不整脈薬を継続投与することも多く,ペースメーカー機種の選択も含めて一考を要する症例と考えられたため,ここに報告した.