著者
荒木 勉 藤野 陽 田口 富雄 瀧本 弘明 東福 要平 清水 賢巳
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.135-141, 1996-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
8

好酸球増多を伴う急性心膜心筋炎を発症し,ステロイド投与が有効であった若年女性例を経験したので報告する.症例は20歳女性,主訴は胸部圧迫感.入院時軽度の好酸球増多(567/mm3)と心電図で右軸偏位・低電位差・陰性T波を,胸部X線で心拡大と両側の胸水貯留を,心エコー図で心のう水貯留と心筋のび漫性の肥厚と壁運動の低下を,右心カテーテル検査で肺毛細管楔入圧(25mmHg)・右室拡張末期圧(24mmHg)・右房圧(22mmHg)の著明な上昇と心係数(1.9l/分/m2)の著明な低下,およびdip and plateau様の右室心内圧波形を認め,急性心膜心筋炎と診断した.ドブタミンとフロセミドの投与により血行動態は改善したが,心エコー図所見は不変で,好酸球増多がさらに進行(1,215/mm3)したことより,心膜心筋炎の原因に何らかのアレルギー機序が関係しているものと推定し,ステロイド投与を開始した.投与開始後,末梢血の好酸球は速やかに消失し,約3週間の経過で心電図・胸部X線・心エコー図所見ともにほぼ正常化した.好酸球増多および心筋心膜炎の原因を特定することはできなかったが,臨床上心のう水貯留(心膜炎)を主体として心タンポナーデに近い血行動態を示し,治療上ステロイド投与が有効であった点で,好酸球増多と心疾患の関連を考察する上での貴重な症例と考え報告した.
著者
賀来 文治 油尾 亨 藤田 主税 吉田 太治 下島 正也 勝田 省嗣 田口 富雄 新田 裕 平岩 善雄
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.1145-1152, 2013-09-15 (Released:2014-09-17)
参考文献数
18

症例は92歳の女性.86歳時に他院にて洞不全症候群および発作性心房細動の診断でAAIペースメーカーの植え込みがなされ,植え込み後も発作性心房細動に対して抗不整脈薬(ピルジカイニド75mg/日,ベラパミル120mg/日,メチルジゴキシン0.05mg/日)の投与が継続されていた.ペースメーカー植え込み後,毎年施行されていたペースメーカーチェックでは,心房のペーシング閾値は0.5V(パルス幅0.4msec)で,ペースメーカーの出力は2.5Vに設定されていた.以後,施設に入所中であったが,意識低下,低酸素血症,徐脈,ショック状態にて当院救急外来へ緊急搬送された.搬送時の心電図では心房のペーシング不全と高度の徐脈を認めた.まず,ペースメーカーの出力を10V(パルス幅1.0msec)にしたが心房は捕捉されなかった.次に体外式ペースメーカーを挿入し,右房の数か所で10V(パルス幅0.75msec)の出力でペーシングを試みたが,やはり心房は捕捉されなかった.引き続き右室でのペーシングを行ったところ,心室は容易に捕捉可能であり心室のペーシング閾値は1.0V(パルス幅0.75msec)であった.その後ピルジカイニドの血中濃度が2.3μg/mLと中毒域にあったことが判明した.抗不整脈薬の中止とともにペーシング不全は改善,全身状態も改善し救命可能となった.本例では血中ピルジカイニド濃度の上昇がペーシング不全の主因であった可能性が高いが,心房と心室のペーシング閾値に大きな差を認めた.日常臨床の場では,ペースメーカー植え込み後に抗不整脈薬を継続投与することも多く,ペースメーカー機種の選択も含めて一考を要する症例と考えられたため,ここに報告した.