著者
海部 忍 北中 雄二 横野 志帆 土橋 孝之 椛 秀人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】発達障害とは「学習障害(LD)」,「注意欠陥多動性障害(ADHD)」,「広汎性発達障害(PDD)」「軽度の知的障害」,「発達性協調運動障害」を称したものである。近年,発達障害はまれな障害ではなく,我々理学療法分野においても発達性協調運動障害に対する介入が求められている。そこで今回は,発達障害児の描写する自画像と運動発達の関係性を検討したので報告する。【方法】対象は当院小児外来リハビリテーションに通院している発達障害児11名(平均月齢66±17.5ヶ月)である。対象児にはA4用紙に鉛筆を用い,自己の全身像を描写するよう教示した。描写された自画像はグットイナフ描写テスト(以下DAM)を用いて採点し,精神年齢を算出した。また,児の運動機能評価には乳幼児発達スケールを使用し運動領域における発達年齢を算出した。統計学的解析には児の生活年齢,DAMから算出される精神年齢,乳幼児発達スケールから算出される運動発達年齢を対応のある一元配置分散分析にて分析した。また,児の生活年齢および精神年齢,運動発達年齢の関係性を検討するためPearsonの相関係数にて分析した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準拠し,対象児の保護者には口頭および紙面にて同意を得た上で実施した。【結果】描写された自画像の一例として頭部は描写されているが頸部や体幹が描写されず,頭部から直接四肢が描写されているものや,頭部・頸部・体幹は描写されているが四肢の描写が曖昧なものなど,生活年齢に対して描写内容が不十分なものが多かった。統計学的分析結果としては対象児の生活年齢に対して精神年齢および運動発達年齢に有意な低下が認められた(p<0.05)が,精神年齢と運動発達年齢との間に有意差は認められなかった。また,生活年齢と精神年齢の間(p<0.01 r=0.73),精神年齢と運動発達年齢の間(p<0.01 r=0.89)には有意な相関関係が認められた。【考察】今回,発達障害を有する児は自己身体に対する認識の低下が自画像に現れており,生活年齢に対し精神年齢および運動発達年齢の低下が認められた。行為および運動を学習する上で自己身体の認識は大切であり,発達障害児において自画像を描写する事は自己身体をどの程度認識できているのか評価するのに有用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は発達障害児に対する理学療法が運動機能面の評価と運動課題の提示だけではなく,児が自己身体を認知できているのかを知る必要性が確認できたと共に,リハビリテーションアプローチ立案の一助となると思われる。
著者
日岡 明美 沖田 学 片岡 保憲 炭岡 良 横野 志帆 海部 忍 北中 雄二 土橋 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2175, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 共感覚は,一種類の感覚情報によって他の感覚が引き起こされる現象である.つまり,共感覚は複数の感覚モダリティにまたがって脳の中で無関係に思える抽象的な情報を結びつける能力である(Ramachandran,2005).この共感覚を利用した抽象概念の照合は,回答や判断を明確に伝えることのできない知的機能が低下した脳卒中片麻痺患者の意思決定を表現する手がかりとなる可能性が推察されている(日岡,2010).また,言語発達の遅延や他人と感情を共有して,意思疎通を図ることが困難な症状を呈する自閉症児においても抽象概念の照合が意思決定を表現する手がかりとなる可能性が考えられる.本研究目的は脳卒中片麻痺患者および自閉症児に共感覚を問う課題を実施し,抽象概念を照合する能力と説明する能力を知的機能という視点から分析することである.【方法】 脳卒中片麻痺患者30名(男性8名,女性22名,平均年齢76.3±11.2歳)および自閉症児14名(男児10名,女児4名,平均年齢8.5±1.9歳)を対象にブーバ/キキ実験を実施した.手順として,二つの異なる図形(でこぼこした図形,ぎざぎざの図形)を提示し,「この形は,一つは『ブーバ』,もう一つは『キキ』と言います.どちらが『ブーバ』でどちら『キキ』ですか.」と指示し,判断を求めた.回答が得られた後に,「ブーバ」と判断した理由(以下,質問1),「キキ」と判断した理由(以下,質問2)についてのインタビューを実施した.また,知的機能評価として,レーヴン色彩マトリックス検査(以下,RCPM)を実施した.質問1,2におけるインタビュー結果から両方の説明が可能であった群(以下,A群)と両方または片方の説明が不可能であった群(以下,B群)に分類した.脳卒中片麻痺患者と自閉症児のそれぞれ2群間のRCPM得点をMann-WhitneyのU検定を用いて比較分析した.なお,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 すべての対象者および保護者に本研究目的の説明を行い,同意を得た.【結果】 ブーバ/キキ実験において,でこぼこした図形が「ブーバ」,ぎざぎざの図形が「キキ」と判断した脳卒中片麻痺患者は30名中29名,自閉症児は14名中13名であった.RCPMの平均値および標準偏差は脳卒中片麻痺患者では16.3±8.6点(最小値0,最大値30点)であり,自閉症児では24.5±9.3点(最小値は0,最大値34点)であった.2群の内訳は,脳卒中片麻痺患者ではA群16名,B群13名,自閉症児ではA群5名,B群8名であった.脳卒中片麻痺患者の2群間のRCPM得点の中央値の比較では,A群は19点,B群は14点(p<0.05)であり,A群がB群に比べ有意に得点が高かった.自閉症児の2群間のRCPM得点の中央値の比較では,A群は28点,B群は27点であり,有意差は認められなかった.【考察】 本研究において,でこぼこした図形が「ブーバ」,ぎざぎざの図形が「キキ」と判断した対象者が殆どであったことから,脳卒中片麻痺患者および自閉症児は抽象概念を照合する能力が保たれているということが明らかになった.また,抽象概念を照合する能力が保たれている対象者のなかに知的機能が高い者と低い者が存在していた.この結果は脳卒中片麻痺患者および自閉症児において,抽象概念を照合する能力と知的機能は乖離した能力であるということが示唆された.さらに,抽象概念の照合を説明できたA群と説明できなかったB群をRCPMの得点で比較した際,脳卒中片麻痺患者ではA群はB群に比べて知的機能が高かったが,自閉症児では差を認めなかった.このことは,抽象概念の照合を説明する能力は,脳卒中片麻痺患者では知的機能に依存しているが,自閉症児では非言語性の知的機能の視点からは測ることのできない能力であることが推測された.本来,図形と音との抽象概念の照合は言語の進化に重要であり,人の発達とともに備わってきたものであると推測されている(Ramachandran,2001).本研究結果から,脳卒中片麻痺患者のように,脳機能になんらかの破綻が生じても一度備わった抽象概念を照合する能力は残存している可能性が推察された.加えて,自閉症児のように,言語発達の遅延や意思疎通が困難な症状があり,脳機能の発達過程にあるものでも,抽象概念を照合する能力は形成されている可能性が推察された.【理学療法研究としての意義】 本研究において,対象者の殆どが抽象概念を照合する能力が保たれていた.よって,意思疎通が困難であり,知的機能が低下した脳卒中片麻痺患者および自閉症児に対し,抽象概念を用いた手法が治療介入の手がかりになり得る可能性が示唆された.