著者
石上 俊一 北口 和彦 崎久保 守人 上村 良 浦 克明 大江 秀明 吉川 明 田村 淳 馬場 信雄 坂梨 四郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.475-480, 2008-05-01

はじめに:直腸切断術には,従来の腹会陰式(Miles手術)以外に,体位変換を伴う仙骨腹式,腹仙骨式,腹仙骨腹式などの術式がある.腹会陰式では,術中の体位変換が不要だが,前立腺背側や腔後壁の止血に難渋する場合がある.今回,体位変換を伴う直腸切断術式の有用性につき検討した.方法:当院で1988年4月から2007年3月までの19年間に,直腸癌に対し腹会陰式直腸切断術を施行された70例と,仙骨腹式直腸切断術を施行された64例を対象として,両者における手術時間と術中出血量を比較した.結果:手術時間は,腹会陰式365.6±10.5分,仙骨腹式315.1±8.6分と,腹会陰式に比べ,体位変換が必要な仙骨腹式で有意に短かかった(p=0.0004).ただ,側方郭清は両群とも約半数の症例で施行されており,側方郭清症例の多寡が手術時間に影響しているわけではなかった.術中出血量は,腹会陰式1,338.0±164.1ml,仙骨腹式790.9±69.4mlで,腹会陰式に比べ仙骨腹式で有意に少なかった(p=0.0035).考察:直腸切断術での体位変換は,出血量減少や手術時間短縮を図るうえで有用であった.今後,症例を選別して,積極的にこれら体位変換術式を導入していくとともに,後進の外科医に教育・伝達していきたいと考える.
著者
中山 雄介 大江 秀明 松林 潤 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 花本 浩一 北口 和彦 浦 克明 平良 薫 吉川 明 石上 俊一 田村 淳 白瀬 智之 土井 隆一郎
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.613-618, 2011 (Released:2011-11-07)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は42歳,女性.冷感とふるえを主訴に近医にて精査されたところ,腹部CTで膵尾部に8mmの腫瘤を認め,膵インスリノーマが疑われた.選択的動脈内カルシウム注入法にて,脾動脈刺激でのインスリン値の上昇反応を認め,膵尾部のインスリノーマと診断した.脾温存脾動静脈温存膵尾部切除術を行ったところ,膵尾部の腫瘤は肉眼的に副脾であり,術中超音波検査で副脾以外に腫瘤を同定できなかったために,(1)脾動脈領域の微小インスリノーマの存在,(2)膵島細胞症の可能性を考え,脾動脈領域を網羅する体部の追加切除を行った.病理組織学的に,膵島細胞症と診断され,また膵尾部の腫瘤は膵内副脾と診断された.術後,低血糖症状は消失した.成人発症の膵島細胞症は稀であり,さらに膵内副脾を合併した報告は今までにないが,インスリノーマと術前診断した場合でも,膵島細胞症を念頭に置くことで,適切な治療が可能になると考えられた.
著者
田村 淳 北口 和彦 崎久保 守人 上村 良 大江 秀明 吉川 明 石上 俊一 馬場 信雄 小川 博暉 坂梨 四郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.1565-1572, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

当院外科入院患者において,腸炎症状を発症した症例に偽膜性腸炎またはMRSA腸炎を疑ってバンコマイシンの経口投与を行ったのでその投与状況と効果について検討した.2001年1月から2005年4月までの外科入院患者4867例のうちバンコマイシンの経口投与を受けた症例は41例で,約9割が手術症例であった.その内訳はCD抗原陽性で偽膜性腸炎と診断された症例が10例,便培養検査にてMRSA腸炎と診断された症例が10例,これらを疑ってバンコマイシンを投与したが検査結果により否定された症例が21例で,臨床症状からの正診率は49%であった.治療により全例において症状は軽快し,腸炎による死亡例は認められなかった.腸炎発症前に投与された抗菌薬をセフェム系とカルバペネム系に分けて検討すると,後者の方が腸炎発症リスクが高いと考えられた.手術部位別の比較では,MRSA腸炎は上部消化管手術後に多く発症する傾向がみられた.バンコマイシンはこれらの腸炎の標準的治療薬であるが,腸内細菌叢を攪乱することによりVRE等の新たな耐性菌感染症の発症リスクとなるため,適正な投与基準を設ける必要があると思われる.