著者
余語 覚匡 阿部 由督 伊藤 孝 中村 直人 松林 潤 浦 克明 豊田 英治 大江 秀明 廣瀬 哲朗 石上 俊一 土井 隆一郎
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.101-104, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
8

インスリノーマは膵神経内分泌腫瘍(p-NET)の中では非機能性腫瘍についで多く,機能性腫瘍の中では最も多い。臨床症状としてはWhippleの3徴が知られているが,典型例は多くないため診療を進める上で注意すべき問題がいくつある。一般に診断が遅れがちであるため,低血糖患者に対しては積極的にインスリノーマの存在を疑い,機能検査を駆使して正しい診断に到達することが重要である。単発で転移を有さないことが多いが,正確な局在診断が重要であり,選択的動脈内刺激物注入試験(SASIテスト)や術中超音波検査での確認が有用である。術式選択について,ガイドラインでは腫瘍径および腫瘍と主膵管との位置関係によって,核出術,膵切除術を決定するアルゴリズムを示している。脾動静脈温存手術や腹腔鏡下手術も術式選択としてあげられる。
著者
石上 俊一 北口 和彦 崎久保 守人 上村 良 浦 克明 大江 秀明 吉川 明 田村 淳 馬場 信雄 坂梨 四郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.475-480, 2008-05-01

はじめに:直腸切断術には,従来の腹会陰式(Miles手術)以外に,体位変換を伴う仙骨腹式,腹仙骨式,腹仙骨腹式などの術式がある.腹会陰式では,術中の体位変換が不要だが,前立腺背側や腔後壁の止血に難渋する場合がある.今回,体位変換を伴う直腸切断術式の有用性につき検討した.方法:当院で1988年4月から2007年3月までの19年間に,直腸癌に対し腹会陰式直腸切断術を施行された70例と,仙骨腹式直腸切断術を施行された64例を対象として,両者における手術時間と術中出血量を比較した.結果:手術時間は,腹会陰式365.6±10.5分,仙骨腹式315.1±8.6分と,腹会陰式に比べ,体位変換が必要な仙骨腹式で有意に短かかった(p=0.0004).ただ,側方郭清は両群とも約半数の症例で施行されており,側方郭清症例の多寡が手術時間に影響しているわけではなかった.術中出血量は,腹会陰式1,338.0±164.1ml,仙骨腹式790.9±69.4mlで,腹会陰式に比べ仙骨腹式で有意に少なかった(p=0.0035).考察:直腸切断術での体位変換は,出血量減少や手術時間短縮を図るうえで有用であった.今後,症例を選別して,積極的にこれら体位変換術式を導入していくとともに,後進の外科医に教育・伝達していきたいと考える.
著者
土井 隆一郎 阿部 由督 伊藤 孝 中村 直人 松林 潤 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 浦 克明 豊田 英治 平良 薫 大江 秀明 川島 和彦 石上 俊一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.256-261, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
9
被引用文献数
1

膵神経内分泌腫瘍(pNET)は神経内分泌組織にある腸クロム親和性細胞由来の腫瘍であるとされる。実際に遭遇する腫瘍の種類は多く,腫瘍ごとに症状が異なるため診断方法もさまざまである。しかしながらpNETと診断された場合はすべて外科切除の適応と考えるべきである。インスリノーマ以外の腫瘍は転移・再発のリスクが極めて高く,リンパ節郭清が必要である。肝転移を伴っている場合は予後不良であるが,一方,切除によるメリットがあると判断される場合は肝切除の適応がある。外科切除のみで根治できない症例が多く,集学的治療を考慮しなければならない。pNETに対する分子標的治療薬を組み込んだ治療体系の整理が必要である。
著者
諏訪 裕文 馬場 信雄 畦地 英全 雑賀 興慶 崎久保 守人 上村 良 大江 秀明 岩崎 稔 吉川 明 石上 俊一 田村 淳 小川 博暉 坂梨 四郎
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 = The Journal of Japan Pancreas Society (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.547-553, 2005-12-29
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

症例は62歳の男性. 膵頭部癌にて膵頭十二指腸切除術を施行した13カ月後, 胸部CTにて多発肺転移を指摘された. 塩酸ゲムシタビン1,000mg/m<sup>2</sup>の点滴静注を週1回行い, 3週投薬後1週休薬のスケジュールを1クールとして化学療法を開始した. 消化器症状や血液毒性がほとんど認められず, 第2クールからは外来通院で行うこととした. 第2クール後のCTで抗腫瘍効果はNCであり, 第3クールからはQOLの維持と長期投与を目的として塩酸ゲムシタビンの1回投与量を700mg/m<sup>2</sup>に減量した. 以後, 副作用なく癌性胸水の出現まで長期間NCを維持し, 外来にて14カ月間の継続治療が可能であった. 膵癌術後の肺転移再発の予後は極めて不良であるが, 本症例のように, ゲムシタビン治療により, 外来でQOLを維持しながら長期生存が可能な場合もある.
著者
中山 雄介 大江 秀明 松林 潤 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 花本 浩一 北口 和彦 浦 克明 平良 薫 吉川 明 石上 俊一 田村 淳 白瀬 智之 土井 隆一郎
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.613-618, 2011 (Released:2011-11-07)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は42歳,女性.冷感とふるえを主訴に近医にて精査されたところ,腹部CTで膵尾部に8mmの腫瘤を認め,膵インスリノーマが疑われた.選択的動脈内カルシウム注入法にて,脾動脈刺激でのインスリン値の上昇反応を認め,膵尾部のインスリノーマと診断した.脾温存脾動静脈温存膵尾部切除術を行ったところ,膵尾部の腫瘤は肉眼的に副脾であり,術中超音波検査で副脾以外に腫瘤を同定できなかったために,(1)脾動脈領域の微小インスリノーマの存在,(2)膵島細胞症の可能性を考え,脾動脈領域を網羅する体部の追加切除を行った.病理組織学的に,膵島細胞症と診断され,また膵尾部の腫瘤は膵内副脾と診断された.術後,低血糖症状は消失した.成人発症の膵島細胞症は稀であり,さらに膵内副脾を合併した報告は今までにないが,インスリノーマと術前診断した場合でも,膵島細胞症を念頭に置くことで,適切な治療が可能になると考えられた.
著者
松林 潤 平良 薫 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 浦 克明 豊田 英治 大江 秀明 川島 和彦 石上 俊一 土井 隆一郎
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.328-336, 2015-04-01 (Released:2015-04-17)
参考文献数
37

症例は62歳の男性で,健康診断にて胆道系酵素上昇を指摘され,当院を受診した.画像検査で肝左葉に直径3 cmの腫瘤性病変と,その近傍に拡張した肝内胆管を認めた.胆汁細胞診はclass IIであったが,多数の肝吸虫の虫卵が証明された.本患者にはフナの生食の嗜好歴があった.Praziquantelを内服後,肝吸虫症に合併した肝内胆管癌と考え,肝左葉切除術を施行した.病理組織学的検査は低分化型腺癌であった.腺癌周囲にはリンパ球浸潤や線維化が生じており,慢性胆管炎後の変化が見られた.胆管内には結石などその他の慢性炎症の原因となるものはなく,本症例は肝吸虫症による慢性炎症が胆管癌発生に関与したと考えられた.淡水魚の生食歴などがあれば,糞便検査や十二指腸液検査などを行い,肝吸虫や虫卵を認めた場合は,駆虫するとともに胆管癌合併の可能性を考慮する必要がある.
著者
田村 淳 北口 和彦 崎久保 守人 上村 良 大江 秀明 吉川 明 石上 俊一 馬場 信雄 小川 博暉 坂梨 四郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.1565-1572, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

当院外科入院患者において,腸炎症状を発症した症例に偽膜性腸炎またはMRSA腸炎を疑ってバンコマイシンの経口投与を行ったのでその投与状況と効果について検討した.2001年1月から2005年4月までの外科入院患者4867例のうちバンコマイシンの経口投与を受けた症例は41例で,約9割が手術症例であった.その内訳はCD抗原陽性で偽膜性腸炎と診断された症例が10例,便培養検査にてMRSA腸炎と診断された症例が10例,これらを疑ってバンコマイシンを投与したが検査結果により否定された症例が21例で,臨床症状からの正診率は49%であった.治療により全例において症状は軽快し,腸炎による死亡例は認められなかった.腸炎発症前に投与された抗菌薬をセフェム系とカルバペネム系に分けて検討すると,後者の方が腸炎発症リスクが高いと考えられた.手術部位別の比較では,MRSA腸炎は上部消化管手術後に多く発症する傾向がみられた.バンコマイシンはこれらの腸炎の標準的治療薬であるが,腸内細菌叢を攪乱することによりVRE等の新たな耐性菌感染症の発症リスクとなるため,適正な投与基準を設ける必要があると思われる.