著者
小川 夕輝 曲 寧 北岡 三幸 内藤 宗和 寺山 隼人 伊藤 正裕 松野 義晴 森 千里
出版者
日本生殖免疫学会
雑誌
Reproductive Immunology and Biology (ISSN:1881607X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.49-55, 2009 (Released:2009-11-20)
参考文献数
30

精細管内のhaploid germ cellsは、様々な自己抗原を含むことがわかっているが、Sertoli細胞間の結合で構成される血液−精巣関門 (blood-testis barrier=BTB) によって免疫系 (精巣間質マクロファージを含む) からある程度守られているとされている。しかしながら、直精細管および精巣網には、投与された抗体やhorseradish peroxidase (HRP) が管内へ若干入り込むため、その部位のBTBは生理学的に脆弱なことが明らかとなってきている。精巣毒性物質として知られているカドミウム (CdCl2) は、主に精巣毛細血管障害を引き起こし、BTBの破壊や精上皮壊死を伴うことが報告されているが、本研究では、精子形成障害を惹起しない程度のCdCl2微量投与 (1mg/kgおよび3mg/kg) による精巣の免疫学的組織環境変化 (CdCl2投与12および72時間後の外来性HRPと内在性IgGの精巣内分布の変化) を、8週齢雄A/Jマウスを用いて組織化学的に検討した。その結果、CdCl2投与によって、HRP (屠殺30分前に投与) は直精細管・精巣網周囲の間質に強い集積を認めたが、間質の定住マクロファージによるHRP取り込みは精巣全域で逆に弱くなった。また、基底膜を超えて管内 (精細管→直精細管→精巣網) の上皮細胞に取り込まれたり上皮細胞間に侵入するHRP像を一部に認めたが、特に直精細管・精巣網に選択的に起こるものでなかった。一方、内在性のIgGは、HRPのような局在性分布や定住マクロファージによる取り込みを、対照群、CdCl2投与群ともに認めず、精細管→直精細管→精巣網への侵入像も精細管の一部に観察するのみであった。よって、精子形成障害を引き起こさない程度の微量CdCl2投与によっても、精巣間質における微小循環やマクロファージの機能に障害が起こることが示唆された。また、明らかなBTBの破綻とは異なる精細管→直精細管→精巣網の基底膜の一部に破壊が起こることが示唆された。しかし、その破壊は生理学的にBTBが脆弱とされる直精細管・精巣網に強く起こるということはないことがわかった。