著者
寺山 隼人 梅本 佳納榮 曲 寧 坂部 貢
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-134, 2019 (Released:2019-07-10)

ネオニコチノイド系農薬(NP)はニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)へのアゴニスト作用によって害虫に対しては強い毒性を発揮するが、哺乳類には安全であるとされ世界中で汎用されている。しかし、近年、実験動物でNPが神経系、免疫系、生殖器系など様々な器官に悪影響を及ぼす事が報告されている。精巣内環境は思春期を境に精子・精子細胞が出現するため劇的に変化する。成獣雄マウスにNPを投与すると、血清テストステロンの低下や造精障害が報告されているが、幼若雄マウスにNPを投与した報告はない。そこで本研究は、幼若雄マウス(3週齢)にNPであるアセタミプリド(ACE)を投与し、精巣に与える影響を検討した。ACEを水道水に溶かし自由飲水させる実験(ACE1およびACE2)群、ACEを溶解している界面活性剤(DMSO)のみを水道水に溶かし自由飲水させるDMSO群、水道水のみ自由飲水させるUntreated群の4群に分け、180日後に精巣を深麻酔下で摘出し、形態学的および分子生物学的に評価した。その結果、180日後の体重は実験群で有意に減少したが、精巣の重量や組織に有意な変化はなかった。ステロイド合成系、増殖細胞因子、nAChRサブユニットのmRNA発現は実験群で有意に低下していた。ACE曝露は形態学的変化を誘導しない投与量でも、精巣内に蓄積し、遺伝子発現に様々な変化を及ぼすことがわかった。さらに、過去の文献と比較すると種差、ネオニコチノイド系農薬種、週齢において、かなり感受性の違いがある事もわかった。
著者
小川 夕輝 曲 寧 北岡 三幸 内藤 宗和 寺山 隼人 伊藤 正裕 松野 義晴 森 千里
出版者
日本生殖免疫学会
雑誌
Reproductive Immunology and Biology (ISSN:1881607X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.49-55, 2009 (Released:2009-11-20)
参考文献数
30

精細管内のhaploid germ cellsは、様々な自己抗原を含むことがわかっているが、Sertoli細胞間の結合で構成される血液−精巣関門 (blood-testis barrier=BTB) によって免疫系 (精巣間質マクロファージを含む) からある程度守られているとされている。しかしながら、直精細管および精巣網には、投与された抗体やhorseradish peroxidase (HRP) が管内へ若干入り込むため、その部位のBTBは生理学的に脆弱なことが明らかとなってきている。精巣毒性物質として知られているカドミウム (CdCl2) は、主に精巣毛細血管障害を引き起こし、BTBの破壊や精上皮壊死を伴うことが報告されているが、本研究では、精子形成障害を惹起しない程度のCdCl2微量投与 (1mg/kgおよび3mg/kg) による精巣の免疫学的組織環境変化 (CdCl2投与12および72時間後の外来性HRPと内在性IgGの精巣内分布の変化) を、8週齢雄A/Jマウスを用いて組織化学的に検討した。その結果、CdCl2投与によって、HRP (屠殺30分前に投与) は直精細管・精巣網周囲の間質に強い集積を認めたが、間質の定住マクロファージによるHRP取り込みは精巣全域で逆に弱くなった。また、基底膜を超えて管内 (精細管→直精細管→精巣網) の上皮細胞に取り込まれたり上皮細胞間に侵入するHRP像を一部に認めたが、特に直精細管・精巣網に選択的に起こるものでなかった。一方、内在性のIgGは、HRPのような局在性分布や定住マクロファージによる取り込みを、対照群、CdCl2投与群ともに認めず、精細管→直精細管→精巣網への侵入像も精細管の一部に観察するのみであった。よって、精子形成障害を引き起こさない程度の微量CdCl2投与によっても、精巣間質における微小循環やマクロファージの機能に障害が起こることが示唆された。また、明らかなBTBの破綻とは異なる精細管→直精細管→精巣網の基底膜の一部に破壊が起こることが示唆された。しかし、その破壊は生理学的にBTBが脆弱とされる直精細管・精巣網に強く起こるということはないことがわかった。