著者
和田 治 赤山 僚輔 飛山 義憲 北河 朗 丸野 英人 岩崎 安伸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101867-48101867, 2013

【はじめに,目的】前十字靭帯(ACL)損傷は,スポーツ膝傷害の中でも頻度が高い.ACL再建術後の目標は受傷前の運動レベルに復帰し,復帰したスポーツにおいて全力でプレー出来ることである.ACL再建術後の運動復帰および復帰後の全力プレーには,再建された膝機能に加え,再受傷に対する恐怖心やスポーツに対する自信などの心理的要因が重要であると考えられるが,これらの項目とスポーツ復帰の関連性を包括的に検討した研究は見当たらない.そこで本研究はACL再建術患者を対象とし,膝の機能面と再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信とACL再建術患者のスポーツ復帰状況との関連性を明らかにし,さらにこれらの要素がスポーツ復帰後の全力プレーに与える影響を検討することを目的とした.【方法】対象は当院にてACL再建術を施行された患者のうちアンケート調査に同意の得られた156名とした.まず,受傷前,術後の活動レベルの指標としてTegner Activity Scoreを使用した.また,膝機能の評価としてIKDC Subjective Scoreを用いた.心理的要因に関しては,再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信,全力プレーを評価するため,Mohtabi ,Websterらの質問紙を日本語訳・引用しVisual Analog Scale(VAS)を用いて評価した.Tegner Activity Scoreに関しては受傷前/術後の両方を,IKDC Subjective Score,恐怖心,自信,全力プレーのVASは術後の状態のみ聴取した.復帰の基準は,受傷前,術後のTegner Activity Scoreを用い,対象者を復帰可能群と復帰不可能群に分けた.次にIKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVAS,全力プレーのVASを対応のないt検定を用いて各群で比較した.さらに,復帰可能群を対象とし,従属変数を全力プレーのVAS,独立変数をIKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVASとした重回帰分析を行った.なお,手術時の年齢,性別,術後の経過期間,受傷前Tegner Activity Scoreを調整変数として投入した.有意水準はすべて5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,対象者には本研究の主旨,目的,測定の内容および方法,安全管理,プライバシーの保護に関して書面および口頭にて十分な説明を行い,署名にて同意を得た.【結果】アンケートに協力の得られた156名のうち,受傷前のTegner Activity Scoreが4以下の者および社会的な理由により活動レベルが低下した者を対象から除外した結果,分析を行った対象者は140名となった(年齢25.8±12.0歳,男性57名/女性83名,身長165.2±8.6cm,体重61.1±12.9kg).対象者全体の復帰率は82.1%であり,復帰可能群115名,復帰不可能群25名であった. IKDC Subjective scoreに関しては,復帰可能群で有意に高い数値を示した(p<0.01).一方で,再受傷に対する恐怖心およびスポーツに対する自信では,両群の間に有意な差は認められなかった.また重回帰分析の結果,IKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVAS全てが有意な項目として抽出され(p<0.01),全力プレーのVASにはスポーツに対する自信のVASが最も影響を与える結果となった.【考察】IKDC Subjective Scoreを復帰可能群と復帰不可能群と比較すると,復帰可能群で有意に高い結果となった.したがって,復帰可能群では復帰不可能群よりも優れた膝機能を獲得していることが明らかとなり,ACL再建術後のスポーツ復帰には膝機能の獲得が重要であると予想される.一方で,再受傷に対する恐怖心およびスポーツに対する自信に関しては復帰可能群と復帰不可能群では有意な差は認められず,これらの項目はACL再建術後のスポーツ復帰には影響を与えないことが示唆される結果となった.さらに,復帰可能群を対象とした重回帰分析の結果,スポーツ復帰後の全力プレーには,膝機能,再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信の全てが影響を与えることが明らかとなり,さらに膝機能よりもスポーツに対する自信が重要となることが示唆された.スポーツに対する自信の低下はスポーツ時の消極的なプレーにつながり,全力プレーを阻害していると予想される.本研究結果より,ACL術後のスポーツ復帰にはまず膝機能が重要となるが,復帰後に全力プレーを可能にし,プレーの質を向上させるには,膝機能に加え自信を高めていく必要があることが示された.【理学療法学研究としての意義】現在まで,ACL再建術後の膝機能および心理的要因を包括的に検討した研究は認められない.本研究は今まで明らかにされていなかった,ACL再建術後の膝機能および心理的要因がスポーツ復帰におけるどの段階で重要となるかを示した点において,臨床におけるリハビリテーションを行う上で1つの示唆を与えるものであると考える.
著者
三星 健吾 佐藤 伸明 高橋 洋介 前川 慎太郎 田中 敏之 安村 明子 大牧 良平 柳川 智恵 瀧口 耕平 古川 裕之 北河 朗 吉貝 香織 恒藤 慎也 中西 拓也 高見 良知
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】2008年に啓発部事業の一つであったスポーツ啓発事業を,より一層充実した活動を行うために独立した部としてスポーツ活動支援部(以下,スポ活部)が誕生した。今回,当部の活動実績と今後の課題について報告する。【活動報告】現在活動を企画・運営している部員は17名(男性12名 女性5名),サポートスタッフ(以下スタッフ)登録者は124名(男性95名 女性29名)である。サポートを行っている競技は,成長期および育成年代のサッカー,高校柔道,市民マラソンと,障害者スポーツとしてシッティングバレー・車いすテニスの5種目である。部員は,各競技に班長1人と班員3名程度の小グループを作り,年間の活動計画や勉強会の企画を作成する。その企画内容にしたがい,スポ活部全体でサポートする形をとっている。主なサポート内容は,試合中の選手に対するコンディショニングおよび障害予防につなげるためのメディカルチェックや,スタッフに対し各競技の特性や各現場で必要な知識および技術に関する勉強会である。年間の活動日数は5種目すべての,試合前の勉強会,当日のサポート,サポート後の反省会を含めると,年間30日程度となっている。【考察】選手および大会関係者からの我々に対する認知度は,サポートを重ねるごとに向上している。一方でサポートする競技が増えてくるに従い活動時期が重なり,スタッフの確保が困難な場合がある。スタッフの知識および技術の維持・向上を図りながら,現場活動へ継続的に参加するモチベーションをいかに維持していくかが大きな課題である。【結論】今後の方針として,社会貢献事業としての活動の継続と更なる発展はもとより,今までサポートしてきた選手の評価および治療効果をまとめ,各スポーツの特性を把握し発生しやすい外傷や慢性障害を啓発し,予防事業にも力を入れていきたいと考える。